投球動作解析×ウェアラブルセンサー:投球動作解析の春はまだ訪れないかもしれない
▼ 文献情報 と 抄録和訳
野球の投球動作の研究にウェアラブルセンサは有効で信頼できるか?マーカーベースのモーションキャプチャーとの独自比較
Camp, Christopher L., et al. "Are Wearable Sensors Valid and Reliable for Studying the Baseball Pitching Motion? An Independent Comparison With Marker-Based Motion Capture." The American Journal of Sports Medicine 49.11 (2021): 3094-3101.
[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar
✅ 投球動作用ウェアラブルセンサー:motus BASEBALLとは?
motus BASEBALLは投手がセンサーを搭載したスリーブを肘に着用し、投球することで、投球動作の数値やトレーニング量、肘のストレス値データを蓄積。これまで指導者や選手は、経験と感覚に基づいて投球を管理する他なかったフィールドに、データという客観的な判断指標を提供します。数年にわたって取得された膨大なデータの機械学習によって、投球パフォーマンス改善や肘の故障の予防など、今後のトレーニングを一新するウェアラブルデバイス。 >>> site
[背景・目的] 近年、内側尺側側副靭帯損傷の有病率は、年齢や技術レベルを問わず、投擲選手において増加している。motusBASEBALLのセンサーは、慣性計測ユニット(IMU)を有しており、開発されて投擲腕に適用することで、いくつかの客観的なパラメータの計測が可能となり、投擲選手のモニタリング、リハビリテーション、傷害予防に有益であると考えられる。しかし,IMUの信頼性,一貫性,および妥当性については,独立した評価が行われていない.motusBASEBALLセンサーの信頼性、一貫性、および妥当性を、歴史的なゴールドスタンダードであるマーカーベースのモーションキャプチャーと比較して評価する。
[方法] 研究デザインはコントロールされた実験室での研究。この研究には、高校時代にバレーボール経験のある健康な男性野球選手10名がボランティアで参加しました。参加者にはモーションキャプチャー用の37個の再帰反射型マーカーとIMUセンサー「motusBASEBALL」を装着した。参加者は最大努力で5つの速球を投げ、モーションキャプチャーとIMUで同時に測定を記録した。アームスロット、アームスピード、アームストレス、肩の回転を測定し、比較した。
[結果] IMUで計測された4つの指標のうち、アームスロット(5.0°±6.1°、P = 0.037)、肘関節捻転トルク(9.4±12.0N・m、P = 0.037)、肩関節回旋(6.3°±6.1°、P = 0.014)を含む3つの投球指標で、モーションキャプチャーと比較して有意差が認められた。腕の速度は、統計的に有意な差を示さなかった(29.2±96.8rpm、P = 0.375)。IMUはピッチングパフォーマンスの値を常に過小評価していた。内部信頼性に関しては、肩の回転は誤差5°以下の良好な信頼性を示し,腕のスロットは誤差10°以下の良好な信頼性を示した.アームストレスとアームスピードの信頼性は低かった。
[結論] IMUはマーカーベースのモーションキャプチャーと比較して、アームスロット、アームストレス、肩の回転については精度や有効性が低かった。腕の速度については比較的正確であった。妥当性に欠けるものの、腕の速度と肩の回転については一貫して信頼性が高く、腕のスロットと腕の応力については比較的信頼性が高かった。このIMUが提供する値を、マーカーベースのモーションキャプチャーというゴールドスタンダードと比較する際には、注意が必要である。
[臨床的関連性] IMU技術は、有効であれば投球アスリートのモニタリング、リハビリテーション、および傷害予防に使用できる可能性がある。本研究では、IMUによって提供される値は、マーカーベースのモーションキャプチャのゴールドスタンダードによって生成された値と同等であると考えるべきではないことを示している。しかし、投球選手内の比較と追跡のためにその内部一貫性に依存する場合、この技術にはまだ役割があるかもしれない。
▼ So What?:何が面白いと感じたか?
SuperHuman、実は動作解析を戦場の1つとしている人間だ。
だからわかるのだが、三次元動作解析によって関節角度や、関節角速度や、関節トルクを算出することは、非常に手間と労力のかかる仕事だ。
いまや、VICONなどとリンクするパッケージ化されたアルゴリズムがあるためプロセスが隠蔽されがちだが、一度やってみて欲しい。白髪増えると思う。
そんな中、2017-2018年くらいから加速度計が内在されたスリーブによって、肘の関節角度と角速度と関節トルクが出せるというツールが、論文でちらほら報告されるようになった。
「投球動作解析の春が来る!!!これならスポーツ現場や、ゆくゆくアンダーウェアに組み込まれて全投球が解析されることになったら、これまでの未開がずいぶんと開拓されることになる!!!」
そう思った。だが、今回の研究が明らかにしたことは、「まだ早い!」だ。
関節角度で5-6度も違っているようでは、関節トルクで10Nmも違っているようでは、定規としてあまりにも出来が悪い。ぐにゃぐにゃだ。もう少し洗練がいる。
・・・1年後、3年後、5年後、技術が追いつくときが必ず来る。
そのとき、投球動作解析の春が訪れる。
そこで必要とされることは、エンジニアの心身ではなく、医療者の解釈と治療法とのリンクだ。
関節角度、関節角速度、関節トルク、だから何?、それはわかるようになっておきたい。
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