自転車のサドルには『ノーズティルト』という高さ以外の調整因子がある
📖 文献情報 と 抄録和訳
ノーズダウンサドルの傾きにより、座位での上り坂サイクリングにおける総体的な効率が改善される
Wilkinson, Ross D., and Rodger Kram. "Nose-down saddle tilt improves gross efficiency during seated-uphill cycling." European journal of applied physiology 122.2 (2022): 409-414.
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar
[背景・目的] 上り坂は、競技者だけでなく、レクリエーション用のサイクリストにとっても難題である。限られたエビデンスに基づき、サドルの鼻(ノーズティルト)を下に傾けることで上り坂のサイクリング効率が6%も向上すると報告する科学者がいる。目的:ここでは、サドルの鼻を下に傾けるだけで、上り坂のサイクリング中の効率が向上し、パフォーマンスが改善されるかどうかを調査した。
[方法] 19名の健康なレクリエーション用サイクリストが、8°に傾斜した特注の大型トレッドミル上で、路面と平行と8°ノーズダウンの2つのサドル傾斜角度条件で、~3W kg-1で5分間のサイクリングを複数回試行した。被験者の酸素消費量と二酸化炭素発生量を呼気ガス分析装置で測定し、各5分間のトライアルの最後の2分間の平均代謝力を算出した。
✅ 図. 傾斜8°(14.1%)のトレッドミル上での2つの着座型サイクリング条件における鞍部傾斜角の説明図
[結果] 平行鞍の条件と比較して、ノーズティルトを8°下げると総効率が0.205から0.208に向上し、平均1.4%±0.2%の向上が見られた、t = 5.9, p < 0.001, CI95% [0.9 to 1.9], dz = 1.3.
[結論] 我々の発見は、競技およびレクリエーションサイクリストに関連し、上り坂サイクリングの効率を高める新しいデバイスやサドルのデザインを革新する機会を提供するものである。他の坂道に対するサドルの傾きの影響や、効率向上のメカニズムについては、引き続き調査が必要である。
🌱 So What?:何が面白いと感じたか?
自転車・エルゴメータには、構造的に事前調整が可能な部位がいくつかある。
✅ 自転車・エルゴメータにおける調整可能な部位(エビデンス知っている範囲)
● サドルの高さ(📕 Hummer, 2021 >>> doi.)
● ペダルの前後位置調整(📕 Menard, 2018 >>> doi.)
● ペダルの前額面幅:Q-Factor(📕 Thorsen, 2021 >>> doi.)
今回の抄読で、さらに『サドルのノーズティルト』が加わった。
このように調整可能な因子とその目的を知っていることで、患者さんの『信』を得ることができる。
人間には、3段階の価値基準がある。
✅ 人間における3つの価値基準
①期待価値:これぐらいは当然するだろうと期待する範囲
②願望価値:こんなことを知ってくれたら嬉しいなという願望の範囲
③予想外価値:え、そんなに!という予想を超えたところ
すなわち、だいぶ飛躍するが、3回(3つ)、相手の期待を良い方向に裏切ると、予想外価値に近づくと思っている。たとえば、以下のような感じだ。
「はじめまして、Super Humanです、自転車の運動やらせてもらいますね」
(なんか元気はいいけど、胡散臭いね。)
「まず、サドルの高さを調整させていただきます。・・・の目的で××にしますね」
(Wao!①:専門的知識に基づいてやっているのね。この人信用できるかもね。)
「次に、ペダルの前後位置とQ -Factorを調整しますね。・・・の目的で××にしますね」
(Wao!②:えっ、そんなことも調整できるんだ。この人の言っていることなら信頼できそう)
「そうそう、大事なこと。ペダルのノーズティルトの調整をしますね。これで効率が変わります」
(Wao!③:アンビリーバブル、この人のことを友達に話したい、おすすめしたい)
3つ以上のWao!が一度に押し寄せることで、当事者にとってはイリュージョンが起こる。
面白い思考実験で、まったく近代文明が立ち入っていない原住民のところに最新の戦車が入ったら、どうなるか?というものがある。
原住民が戦車を分解し終えた後に出した結論は、「このものは走ってきた。したがって、中に馬が入っていた。しかし、その馬は見えなかった。それは、その馬がゴーストホースであったからである」だ。
幽霊やイリュージョン、魔法というものは、『既知と未知の距離がある一定以上になった状態』のことだと思う。
患者さんに感動のイリュージョン、魔法を体験してもらうには、3つより多くの未知の仕掛けをもっていることが必要だ。もちろん、その効果を出せる仕掛けでなければならない。
知は力なり。見聞を広め、仕組みを多くもち、臨床現場に魔法を起こしたい。
火をたけば上昇気流がおこって雲をつくり雨が降る…..…
それを神のしわざだと信じこんでおる。
ふかしぎなもの力を超越したものを神とよんでいるだけなのだ。ふん、つまらん。
火の鳥(2)
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