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External Focusの威力:脳活動とバランス機能の増大

▼ 文献情報 と 抄録和訳

注意の外部焦点は片手バランス動作に関連する皮質活動に影響を与える

Sherman, David A., et al. "External Focus of Attention Influences Cortical Activity Associated With Single Limb Balance Performance." Physical Therapy 101.12 (2021): pzab223.

[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

✅ 前提知識:フォーカスを変えた3つの課題条件とは?
全体共通:膝を30度屈曲した姿勢で立位を保つ
①内的焦点(IF):「膝を少し曲げた状態でバランスを保ってください」
②体性感覚焦点(EF-baton):大腿前面にパイプ(23cm)をつけて「...バトンはできるだけ動かないようにしてください」
③視覚焦点(EF-laser):膝付近にレーザーをつけて離れたターゲットにレーザーを照射「...レーザーをできるだけターゲットに当てたままにしてください」

[背景・目的] 注意の外部集中(EF)は、バランス能力の向上につながる。EFの神経調節効果を考慮することは、筋骨格系損傷後の神経可塑性障害への対処におけるEFの臨床的有用性を示唆するものである。本研究では、異なる感覚フィードバックを優先させる注意焦点によって、皮質電位活動とバランス能力が変化するか、また皮質電位活動とバランス能力の変化が関連するかどうかを明らかにすることを目的とした。

[方法] 健常者(n = 15)は、内的焦点(IF)、体性感覚焦点(EF-baton)、視覚焦点(EF-laser)の3条件下で片手バランス課題を実施した。脳電図と三軸力板を用いて、脳電位と姿勢動揺を同時に記録した。脳波信号は分解、局在化、クラスター化され、θおよびα-2周波数帯のパワースペクトル密度が生成された。姿勢動揺信号は、圧力の中心動揺指標(面積、距離、速度など)と膝の角度で分析された。クラスター化した脳活動の変化率とタスクパフォーマンス指標との関係が評価された。

[結果] 両方のEF条件とも、IFと比較して皮質活動が増加し、バランス能力が改善された。EF-laserは最大の効果を示し、前頭θパワーが増加(d = 0.64)、中枢θパワーが減少(d = -0.30)、両側運動野、両側頭頂、後頭α-2パワーが減少(d = -1.38~-4.27) し、経路距離が短く(d = -0.94)、膝角が深く(d = 0.70)、変化が少ない(d = -1.15)ことがIFより実証された皮質活動の増加とバランス能力の向上との間には、弱から中程度の関連が存在する(ρ = 0.405-0.584)。

[結論] EFは、認知、運動、体性感覚、視覚処理に関連する皮質活動を増加させた。視覚的なフィードバックを優先するEF-laserは、最大かつ最も広い範囲で効果を発揮した。EFによる皮質活動の変化は、バランス能力の向上と独立して関連していた。

▼ So What?:何が面白いと感じたか?

Internal focus & External focusの概要については、以下noteを参照いただきたい。

この研究の舞台は「運動学習フェーズにおける初期」だ。
運動学習は「認知段階」、「連合段階」、「自動化段階」に分かれる。
今回、被験者は実験者から説明を受け、それを実践している。
上記の中では「認知段階」と「連合段階」にあたる。

なぜそんなことをわざわざ説明するのか?
それは、運動学習のフェーズによって「皮質活動」の善悪が変わるからだ。
運動学習における自動化段階では、皮質活動の増大はむしろ「自動化が進んでいない」とされる。
例えば、サッカーのプロ(ネイマール)は素人と比べてドリブルのさいの脳皮質の活動が極めて少ないことが報告されている(Naito, 2014 >>> doi)。

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プログラミングされきった運動は自動化され、意識的な皮質活動は減る。

✅ 意識下、無意識下の特徴
- 意識下:新規の学習、遅い、操作可能
- 無意識下:既存の学習結果のプログラム、早い、操作不能[操作するには意識へ移行]

今回の研究は、運動学習の初期フェーズにおけるEFの威力を明らかにしたものだ。
そして、次に知りたくなるのは「自動化段階」に対するEFの威力だろう。
たとえば、今回の課題をしばらく継続したときに、脳活動の移行とパフォーマンスはどうなるだろう?
大脳皮質の活動とバランスパフォーマンスはどうか?
大脳皮質活動が少ない方が良いのでは、という仮説が立つが・・・。
とにかく、今後も目が離せない分野だ。

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