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野球肘(UCL損傷)に対する手術後、 球のキレやパフォーマンスは低下しない

▼ 文献情報 と 抄録和訳

メジャーリーグの投手の尺側副靭帯再建術後に同レベルのプレーに戻った投手において、ピッチブレイクとパフォーマンス指標に変化がないこと

Platt, Brooks N., et al. "Pitch break and performance metrics remain unchanged in pitchers who returned to the same level of play after ulnar collateral ligament reconstruction in Major League Baseball pitchers." Journal of Shoulder and Elbow Surgery 30.10 (2021): 2406-2411.

[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

[背景] 尺側副靭帯 (UCL)は、オーバーヘッドスローのアスリート、特に野球のピッチャーによく傷害される。投球動作(ブレーク)は、ピッチングパフォーマンスにとって非常に重要な要素である。この研究の主な目的は、メジャーリーグベースボール(MLB)の投手を対象に、尺側副靱帯再建術(UCLR)の前後で、球速、球切れ、球切れ角度、投球パフォーマンス指標の変化を調べることだった。また,副次的な目的として,UCLRの前後での投球パフォーマンス指標の変化を明らかにした。我々は、UCLRの前後で、投球の切れと投球パフォーマンスの指標が変化しないという仮説を立てた。

[方法] 本研究は、2008年から2014年の間にプライマリーUCLRを受けた投手を対象としたレトロスペクティブケースシリーズ研究であった。術前12~24か月、術後12~24か月、術後24~36か月の各投手について、PITCHf/xシステムから各球の速度、水平方向の動き(Hmov)、垂直方向の動き(Vmov)を収集した。全体のブレークは、HmovとVmovのピタゴラス和をとって算出した。ブレークの角度は、Vmovの逆正接をHmovで割って求めた。術前と術後での球速、動き、動きの角度、パフォーマンス指標の違いを調べるため、反復測定共分散分析を行った。パフォーマンス指標には,ボール,ストライク,スイング,ファウル,スイング&ミス,グラウンドボール,ラインドライブ,ポップアップ,フライボール,ホームランが含まれた。共変量には、手術時の年齢、MLBデビューから手術までの期間、先発としての投球イニング数、リリーフとしての投球イニング数、総投球回数を含めた。

[結果] 2008年から2014年の間にUCLRを受けた46名の投手のコホートにおいて、球速、動き、角度は、術前、術後の期間に関わらず、有意な変化は見られなかった。また、術後の時間枠では、投球パフォーマンスの指標に臨床的に有意な差はなかった

[結論] UCLR後に復帰した投手では、球切れやパフォーマンス指標に有意な影響はない

▼ So What?:何が面白いと感じたか?

高校野球部でトレーナーをしているSuperHumanとしては、最新の投球障害の知見は見過ごせない。
その中で、この論文の結果は、なかなか衝撃的なものだった。

常識的な感覚としては、以下のようなものだろう。

あの選手は肘にメスを入れたから、やっぱり全盛期からは落ちるよね

だが、その常識的な感覚を修正する必要があるかもしれない。
今回の研究は、「球切れやパフォーマンス指標に有意な影響はない」を示した。
これは、近代スポーツ医療・スポーツ科学の勝利と言える結果だろう。
だからといって、批判的な吟味も忘れてはならない。
最大のパフォーマンスとしては、確かに変わらないのかもしれない。だけど・・・、

「投球試合数はどうなんだ?」
「パフォーマンスの持続力はどうなんだ?」
「主観的な不安や自信に与える影響はどうなんだ?」
・・・。

UCL損傷に対する手術が、具体的にパフォーマンスの「何」に影響を与えるのか?
明確に説明されたり、術後のリハビリテーションで重点を置くべき箇所が示される日が近い。

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