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☆22 砂漠の洞窟で

 砂嵐に巻き込まれた謝憐は、近くの洞窟に避難する。

 砂嵐の場面。風が強すぎて視界が悪く、謝憐は一瞬仲間を見失う。合流した南風と扶搖はいずれも叩きつける砂を避けようと顔の前を腕で遮っているが、三郎は手を後ろに組んで何事もないような顔で歩いてくる。常人とは違う、と思わせる描写である。
 「奇妙な砂嵐だ。何か邪気を感じる」と謝憐。これがただの自然現象ではなく、誰かが意図的に引き起こしたものだと推測している。実際そのとおりで、その後起こった竜巻により、謝憐が真っ先に飛ばされたのも、彼さえ遠ざければ他の者は踏み込んでこないと思われたからだろう。

 「頼れるものを掴め」といわれた若邪ルオイエ(謝憐の法器)は三郎を掴む。全くもってよく分かっていると言わざるを得ない。その三郎が謝憐のいる上空まで上がって来てしまうのは、不可抗力ではなく意図的か。謝憐と一緒にいたかったからわざとそうしたのだとしか思えない。
 若邪がその次に掴むのが南風と扶搖で、最後が巨大な岩だ。岩とこの二人を比べると、岩の方が頼れる気がするが…すぐには岩を見つけられなかったか(確かにかなりの距離がありそうだ)、とりあえずこの二人も謝憐と一緒にいた方がいいと判断したのか。いずれにせよ若邪には自分の意思があるようだ。

 若邪が掴んだ巨岩の近くには、岩盤を削って作った洞窟があった。「南風、千斤墜せんきんついの技を試さなかったのか?」と謝憐。千斤墜は自身の体を重くする術。試したが所属する武神の管轄外なので、十分な効果を得られなかった、とのこと。現代中国で一斤は約500g、千斤なら500kg、扶搖と二人なら1tだ。なるほど、もし効果を発揮出来ていたなら、しっかりとした支えになってくれたに違いない。
 ちなみにこの時南風が掌の上に出している明かりは、「掌心焔しょうしんえん」と言う。

 岩盤を調べる南風と扶搖。謝憐は、半月人が岩に洞を掘る理由、その方法について説明する。この話の中に「爆薬」が出てくるが、これは後の伏線だ。話しながら奥へと進み、謝憐らは商人の一行と出逢う。
 ここでの会話に出てくる名前は、「天生ティエンション」と「阿昭アーチャオ(原作のルビは「アージャオ」になっている)」。通った者の半数が命を落とすと噂の半月関だが、地元の案内人がいれば無事ここを通れると商人たちは言う。だが、「そうだよね? 阿昭さん」と天生が確認していることから、それを実際に確かめた者が誰もいないことがわかる。流砂や砂嵐を無事回避出来たことで、阿昭への信頼が大きくなっていることも。

 謝憐たちは一休みすることにして、石碑を見つける。半月文字で書かれた「将軍塚しょうぐんづか」だ。「半月国でがらくたを集めたことがある」と主張する謝憐がこれを読めるのは分かるが、三郎も読めるとは。博識ぶりに関心する謝憐だが、おそらく三郎はありとあらゆる文字を修得し、それらの書を読み漁ったのだろう。彼の知りたいたった一つの事に関する手掛かりを得るために。

 石碑に書かれている「校尉こうい」というのは、手元の辞書によると「(1)中国の官名。漢代、宮城の防衛、西域鎮撫などにあたった武官。(2)律令制の軍団で、兵士二〇〇人を統率する指揮官」となっている。
 将軍塚に書かれた話では、半月国と戦った中原の軍人だったとのことなので、西域鎮撫にあたったということは言えるだろう。この校尉が最初に率いていた兵は百人、最終的には五十人ということだから、今の感覚でいうと中隊なら大尉が率いて二百人、小隊なら少尉が率いて三十人という目安なので、この間、つまり中尉程度の階級と思われる。なかなか凄い。

 さて。以下はこの時点でのネタバレを含むが、私としては既にアニメを視聴し終わった方々へ向けて書いているつもりなので、ご理解いただきたい。

 この後三郎は、石碑には書いていない出鱈目を言って、商人たちに石碑を三拝させる。この場面の考察に、のちにこの校尉が謝憐であったと判明するのを受けて、「謝憐のことを笑ったから拝ませた」とするものがあるが、これは違うと思う。
 まず、三郎はこの時点で、この校尉が謝憐であることを知らない。もし知っていたら、半月国周辺にいた頃の謝憐に接触を試みているはずだからだ。三郎らしき人物や銀蝶に関しても目撃したという描写がなく、知らなかったと断言していいだろう。
 しかしながら、この校尉の人物像に謝憐に近いものを感じ取った、ということはあるかもしれない。或いは石碑の文言を読む謝憐の表情から、何かしらの関係を察知した、ということも。いずれにせよ、敵味方関係なく務めて犠牲を最小限にしようと奮闘した校尉の行動を、三郎は支持したかったし、その嘘か誠か知る由もない校尉の死に様だけを取り立てて笑うのは、気分が悪いと感じたのだろう。

 謝憐は三郎の行動に、「悪い子だ」と言って笑う。
 三郎に対する「いたずら好き」という評価は、この時確定したのかもしれない。

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かんちゃ
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