◉心を尽くせば、心が返る
いつもはまず藍思追の記事を書いてから、振り返って魏無羨や藍忘機のことを書くのだけれど、場面が場面なだけにウズウズして居た堪れないので、先に彼らのことを書く。
小説だと3巻「第十九章 丹心<二>」前半、アニメだと完結編「九話 捧ぐ丹心」の終わり頃から「十話 憎しみに生きて」中盤までの辺り。
第二波の凶屍の群れに対抗するため、魏無羨が自分の衣を召陰旗(死者を誘き寄せる的旗)にして、全ての凶屍の標的を自分自身にすることで、皆を逃がそうとする作戦を考え、実行する場面だ。
ここは、アニメオリジナルの演出が圧倒的に良い。最高。
「藍湛」
「ん」
「やりたいことがある」
「付き合おう」
魏無羨は自らに召陰旗の印を描く。
「生ある人間を祀り、鮮血にて誘う!」
そして、魏無羨とその横に立つ藍忘機、二人の衣がスーッと真紅に変わる。(この場面がアニメオリジナル。「結婚式だーっ」と叫んだのは、私だけではないはず。)
御剣(剣に乗って宙を飛ぶこと)が出来ない魏無羨を抱えて藍忘機が飛び、全ての凶屍が二人に向かって襲いかかってくる。
次々と凶屍を倒していく二人。
だが、あまりにも数が多く、「キリが無い」と手詰まりになったその時。
殺された後、通称「血の池」に投げ込まれていた温氏の残党(と言うが、実のところ戦えない女子供と老人ばかり)が、その池から湧き上がるように現れ、凶屍たちを圧倒して魏無羨の危機を救う。
皆を逃すために先導しようと洞窟の入り口に向かっていた温寧の、周りで何が起ころうとしているのかに気づいて、戦っていた時の白濁した目から黒い瞳が現れるところも良いよね。
「皆なの? 皆なのか?」
「おばあさん、長老……ずっと、此処で、待っててくれたの?」
魏無羨が涙ぐみながら「ありがとう」と深々と皆に拱手(両手を体の前で組み合わせる、中国の敬意を表す礼)をし、温氏の残党として殺された者たちも魏無羨に拱手を返す。
見捨てられた彼らを命懸けで(と言うより、本当に死ぬ間際までずっと)たった一人で守り続けた魏無羨の心根に、温氏の皆が応える場面は、何度観ても涙が出る。
心を尽くせば、心が返る。死者たちの衣は汚れてぼろぼろになっているけれど、まごころ(丹心)にはまごころで返そうとする、とても美しい場面だと思う。
何も悪いことはしていないのに、疎まれ、憎まれ、嫌われ続けた魏無羨の前世。彼自身もおそらくこの瞬間まで「全てが無駄だった」と思っていたように感じるけれど、この場面があったことで、決してそうでは無かった、ちゃんと意味のあることだったんだ、と観ている方にも伝わってきて、深い感銘を受けた。
「温」姓だというだけで理不尽に殺された彼らの心残りが、殺した者たちへの憎しみではなく、魏無羨に受けた恩を返せなかったことだった、というのも伝わってくる。
魏無羨の危機に現れることが出来、ちゃんと彼を守れたことで、彼らの心残りも無くなって、温氏の皆は消えていく。温寧は何とか彼らの魂を掻き集めて供養なり何なりしたかったのだろうけど。
散り散りになったように見える彼らの魂も、おそらく輪廻の輪に戻って、またいつの日か新たな魂として生まれ変わるのだろう。彼らにはその資格があるはずだ。
乱葬崗・伏魔洞でのこの出来事で、魏無羨の過去には、ようやく決着がついた。
後は、現在起こっている問題の決着をつける番だ。