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◎脇役列伝その1:藍思追(5ー2)

(◎脇役列伝その1:藍思追(5ー1)の続き)
 藍思追ランスージュイ金凌ジンリンとの間で少々言い争いのようになったが、仲間の取りなしもあり、また皆で料理と酒を楽しんでいた。
 彼らは酒令しゅれい(酒宴で酒を飲む順番を決める遊戯)に夢中で、飲酒を禁じられているはずの藍家ランけの少年たち数人もこっそり飲もうとして、藍忘機ランワンジーに見つからないように二階の階段に見張りを立てて注意を払っていた。

 ところが、その藍忘機が莫玄羽モーシュエンユー魏無羨ウェイウーシェン)を引っ張って、一階の入り口から突然入ってくる。
 藍景儀ランジンイーは慌てて盃を隠そうとして、逆に皿や茶碗をいくつもひっくり返してしまい、かえって目立たせてしまう。思追はとっさに立ち上がり、取り繕うように口を開いた。
「含、含光君、お二人は、どうしてまた入り口からいらっしゃったんですか……」
 ちょっと夜風に当たってきた、ついでにお前らの様子を見ようと来てみた、とぎこちなく笑う莫玄羽(魏無羨)。藍忘機は彼を引っ張って、少年たちの方へ近づいた。
「含光君、抹額はどうされたん……」
 思追は彼が抹額を結んでいないことに驚愕し、問いかけながら、ふと魏無羨の手元に目をやった。すると、外された含光君の抹額が、まさに魏無羨の手首に結ばれていた。
 しかも、まるでそれを見せつけるかのように、藍忘機は抹額の端を引っ張り、魏無羨の手をその場にいる全員に見えるようにぐいと引き上げた。

「……何してるんだ?」と金凌。
「お前らに、藍家の抹額の特殊な使い方を見せてやってるんだよ」
「特殊な使い方というのは……」
 思追が動揺を隠せずに尋ねる。莫玄羽(魏無羨)は、彷屍を捕まえて観察したい時にこうするんだなどと言うが、
「そんなことできるはずないじゃないですか! うちの抹額は……んぐっ!?」
 景儀が喚き出すと、思追は彼の口に手羽先を突っ込む。
「なるほどです。そのような使い方があるとは知りませんでした!」
 この後、藍忘機は魏無羨を引っ張って、二階へ上がっていった。

 翌朝。二階の部屋の扉を三階叩き、思追は部屋の中へ声をかけた。
「含光君、皆起床しました。出発しますか?」
 町を出た一行は、城門のところで別れの挨拶をした。世家公子たちはそれまで顔を知っているという程度だったが、猫の屍事件から始まり義城での経験を経たこの数日で、すっかり打ち解け、旧知の友人のようになっていたため、城門では別れを惜しみ、再会の約束をして、ぐずぐずと止まっていた。
 やがて莫玄羽(魏無羨)と話していた金凌が、仙子シェンズー(金凌の犬)と共に蘭陵の方向へ帰っていき、他の世家公子たちも三々五々別々の方向へ向かって家に帰っていった。
 最後に残ったのは、藍忘機、莫玄羽(魏無羨)と数名の藍家の少年たちだけだ。

「これからどこへ向かいますか?」
沢蕪君たくぶくん藍曦臣ランシーチェン・藍忘機の兄)は今、潭州たんしゅうの辺りで夜狩をなさっています。私たちはこのまま雲深不知処うんしんふちしょに戻りますか? それとも、そちらに行って沢蕪君と合流しますか?」
 景儀が尋ね、思追がさらに言い添える。
「潭州に合流する」
 藍忘機の答えに莫玄羽(魏無羨)が頷いた。二人が先を行き、少年たちは離れてついていった。

(◎脇役列伝その1:藍思追(5ー3)へ続く)

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かんちゃ
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