◎脇役列伝・番外:暁星塵と宋嵐ー2
義城の町の義荘で、暁星塵と見られる遺体を見つけた魏無羨は、何かを訴えようとする口のきけない盲目の少女の幽霊と共情して、その過去を探ろうとする。少女の名は阿箐。生まれつき白い瞳を持っていたため、本当は見えるのにも関わらず盲人のふりをし、人を騙して同情を買うことで生き延びてきた子供だった。
ある市場で阿箐は暁星塵と出会う。盲人がうっかりぶつかったふりをして財嚢を掠め取ろうとした相手が彼だった。
元々親も家もなかった阿箐は、暁星塵が気に入ったらしく以降「道長、道長」と言いながら、ずっとついて回るようになった。
目的もなく、夜狩を続けながら旅をする二人。やがて彼らは旅の途中、草むらに重傷を負って倒れている男を見つける。そこは義城の近くで、暁星塵はその男を背負い、使われていない義荘を借りて手当することにした。だが、その男こそ薛洋だったのだ。
この時の薛洋は喉までやられていたらしく、声も掠れて盲人である暁星塵は相手が誰だか気づくことができなかった。まして阿箐は仙門のことなど何も知らない。
一か月ほど経ち、薛洋の傷が治ってきた頃、暁星塵が夜狩に行くのに薛洋はついていった。阿箐はこっそり後をつけ、ある村で暁星塵が村人を殺すのを見た。薛洋は昼間彼らに蔑まれたことを恨みに思い、あらかじめ屍毒の粉を撒き、それを吸った者の舌を切り落としてしゃべれないようにした上で、彷屍に見せかけた彼らを暁星塵に殺させたのだ。
暁星塵の剣・霜華は屍気のある方へ彼を導く。その村人たちは屍毒にあたって屍変者と同じ特徴が現れ、屍気も漂わせているが、まだ適切に処置すれば助かる可能性のある者もいたのに、目の見えない暁星塵にはわからず、彷屍と信じて殺してしまったのだった。
数年後。ある日、阿箐がいつものように盲人ふりをしながら町中を歩いていると、一人の若い男が声をかけてきた。全身黒づくめの道服、背に長剣を背負っている。宋嵐だった。
宋嵐が暁星塵を探しているのを知り、悪い人ではないとみて、阿箐は彼らの住む義荘へ宋嵐を案内するが、中へ入る前に、外にいた薛洋が戻ってきた。
薛洋が再び出かけるのを見て、宋嵐は彼を追う。
二人に追いついた阿箐は、林の中にしゃがんで隠れ、その様子を見守った。宋嵐の剣は薛洋の振るう降災よりも明らかに鋭かったが、宋嵐は薛洋が暁星塵と共に暮らして何を企んでいるのか聞き出すために、致命傷を負わせることは避けていた。
剣を振るいながら話を続けるうちに、宋嵐は薛洋が暁星塵を騙して、たくさんの人を殺させていたことを知り、怒りでいっぱいになる。そこへ追い打ちをかけるように、薛洋が暁星塵の目が見えなくなった理由を持ち出し、動揺した宋嵐の隙をついて、屍毒の粉を撒き散らした。
それを吸い込んでしまった宋嵐は慌てて吐き出そうとするが、その時を狙って薛洋は降災を口の中に突き入れ、宋嵐の舌を切り落としてしまう。
そして、彷屍の気配を感じた霜華に導かれた暁星塵がそこへ駆けつけ、相手が誰かも知らぬまま、その心臓を一突きにした。
阿箐は彼らが義荘に戻った頃に、ようやく隠れていた林の中から出てきて、死んだ宋嵐に何もできなかったことを詫び、暁星塵をどうにかして薛洋から引き離すことを決意する。
翌日、口実を作って薛洋一人を買い出しに行かせることに成功した阿箐は、一緒に暮らす男の名前が薛洋であること、手の指が一本欠けている特徴とともに、自分が今まで本当は目が見えていたことも話し、二人で逃げようと言うが、暁星塵は阿箐だけを逃し、薛洋と対峙することを選ぶ。
一度は逃げ出した阿箐は、また戻って物陰に隠れ、二人の会話を聞いていた。
暁星塵は薛洋を責めるが、薛洋は彼が彷屍だと思って殺していた相手がそうではなかったこと、そして宋嵐を殺したのも暁星塵だったことを告げてしまう。
暁星塵はそれ以上耐えられず、霜華を取って自刃した。
阿箐はその後、義城を抜け出し、暁星塵の仇を討ってくれる相手を求めて彷徨ったが、薛洋に見つかり、毒により目を潰され、舌も切り取られてしまった。そしてこの後殺されて、幽霊になってしまったのだろう。
魏無羨は、阿箐が舌を切られる辺りで現在に戻ってきた。その間も藍忘機と薛洋は戦っており、その間に温寧が宋嵐を抑え込み、魏無羨が彼の自我を妨げる原因となっていた頭に刺された釘を引き抜いていた。
藍忘機は優勢ではあったが、義城の深い霧のせいで思うように戦えずにいたところ、阿箐が杖の音で薛洋の位置を知らせ、徐々にこれを追い詰める。焦れた薛洋の投げた呪符によって、阿箐の魂は砕かれてしまうが、この隙に藍忘機の避塵が薛洋の胸を刺し、ついに致命傷を与えるに至る。
薛洋は最後の最後で、墓荒らしと思われる男に伝送符を使われて姿を消したが、既に生きてはいないだろう。
以上、暁星塵と宋嵐に関する義城での顛末だ。
薛洋に関わったことによって、その未来も希望も失ってしまった二人。
宋嵐は温寧と同じく、生ける屍となった。暁星塵の遺志を引き継ぎ、長い時を過ごすことになるだろう宋嵐は、後悔と共に生きるのだろうか。
だが、絶望のあまり砕け散った暁星塵の魂も、ようやく安らぎを得て、いつの日かこの世に戻ってくるかもしれない。
その時は、阿箐も一緒であればいいと思う。