◎脇役列伝・番外:薛洋ー2(その生涯・前編)
タイトル画像はアニメ『魔道祖師』公式サイトの「振り返りカットギャラリー」より。
完結編第一話、薛洋が櫟陽常氏一族皆殺し事件で捕縛され、牢に入れられることになって連行される際、暁星塵に対して「道長、俺を忘れるなよ。この借りはいずれ返す」と言う場面。(小説では「道長、俺のこと忘れないでね。今に見てろよ」になっている。)
櫟陽常氏滅亡事件当時の薛洋
「他にも理由」ということについて、魏無羨は「薛洋が半分に欠けた陰虎符を復元した際、その威力を確かめるために、常氏一門数十人の命を使って実験したのではないか」と考えている。
「常萍の父親の父親とのいざこざ」について、暁星塵の問いに薛洋はこのように答えている。
七歳の頃ある男に、手紙を届けろという使いを頼まれてそれを果たしたが、男は約束の菓子をくれず、そればかりか子供(薛洋)の泣き声に苛立って鞭で打ちつけ、倒れた子供の手の上を牛車で轢いて走り去った。そのため左手の骨は全部砕け、うち一本は元に戻ることなく欠けることになった。
その男が常萍の父親・常慈安で、その復讐のために一族を皆殺しにした、と。そして、こう言う。
薛洋の理屈は、他者のものとは際立って異なっている。それは自分自身に対する評価が極めて高いからだろう。自分と同等以上と認めた者はほとんどおらず、おそらく金光瑶と魏無羨だけではないだろうか。
幼い頃の話を語った時も同情を求めているわけではなく、欲しいのは共感だと思われるが、彼に共感することは誰にもできない。
金光瑶ですら、理解はできるが共感とまではいかないだろう。彼はあくまでも自分の醜い部分は隠した上で、人々の尊敬を集めるように振る舞うし、悪事が明るみに出た時も、共感よりも同情を欲しがっている。
蜀東・義城で暁星塵に化けていた薛洋が、正体を現した後の言葉。
薛洋の魏無羨に対する高い評価が窺える。この後、薛洋は魏無羨に頼み事をするが、それを叶えるために姿を現したと言っている。
陰虎符の件についても、魏無羨の残した半欠けの陰虎符と、「悪友」のところで語られた「魏無羨十九歳の時の手稿」があって、それを不完全ながら復元することができたので、「一から作るなんてできるわけがない」と。
薛洋は魏無羨を「鬼道の開祖」と呼んでいるが、鬼道の術そのものは魏無羨の登場よりももっと古くからあったものと思われる。それをおそらく体系的に整えて、より効率的に発揮する方法を考えだしたので、魏無羨が開祖ということになったのだろう。
魏無羨の才能の高さが窺えるが、この場面ではそれを、薛洋が自分の才の及ばない相手としてして捉えていることがわかる。
暁星塵になりすましていたことについて薛洋は、「あいつは評判が良くて、俺の方は最悪だからな。楽に人の信頼を得るには、当然、あいつのふりをした方がいいだろう?」と言っている。
しかし頼みたいのは「暁星塵の魂の復活」なので、いずれバレることは明白であり、当然バレても平然としているわけだ。
復活が叶ったら、間違いなく魏無羨を殺そうとしていただろう。魏無羨が薛洋に共感して、同様の振る舞いをするかそれを容認すれば別だろうが、それはあり得ないからだ。
さらに魏無羨を殺した後は、彼が温寧に対して行ったように、刺顱釘(自我を失わせるための釘)を打って凶屍として復活させ、自分の思うがままに操ろうと思っていただろうことは容易に想像できる。
魏無羨が「暁星塵」と思われていた男が薛洋だと見破った時の、薛洋に関する描写。
愛らしい顔つきと凶悪な内面。まさに人面獣心だ。矛盾しているとも思える外見だが、彼の内面はもっと矛盾だらけだ。彼自身の中では整合性が保たれているのかもしれないが、ただ単に気まぐれなだけかもしれない。
その上、一切の禁忌を持っておらず、自分自身が面白いと感じるかどうかが、全ての判断基準になっているようだ。
この後、薛洋は魏無羨と話を続けながら、いうことをきかせるために脅しの攻撃を繰り出す。脚の一本くらい斬り落としても問題ないだろう、というような判断だったと思う。
しかしその魏無羨のピンチに、「三百以上の彷屍に包囲させた」はずの藍忘機が現れて、薛洋は彼と戦うことになる。
藍忘機に押され気味になったときの薛洋。
霜華は暁星塵の剣。彼になりすますために、薛洋はこの剣を使っていた。
この後、藍忘機の剣技によって霜華が薛洋の手から離れ、それを掴み取った藍忘機は「貴様はこの剣に相応しくない」と言っている。あくまでも清らかで美しい暁星塵そのもののような霜華が、薛洋のような悪辣で穢れた者の手にあることが許せないと思ったのだろう。
藍忘機もまた清らかで美しい存在だから。
長くなった。次項は、魏無羨が阿箐(義城にいた盲目の少女の幽霊)と共情して過去へ行った場面。阿箐の目を通して、薛洋や暁星塵がどのような関係だったのかを見ていこう。