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◎脇役列伝その1:藍思追(2−3)

(画像はアニメ『魔道祖師』前塵編二話より 莫玄羽を心配する蘭思追)

(◎脇役列伝その1:藍思追(2−2)の続き)
 失魂者たちは天女像に願い事をした結果、それを叶える代償に魂魄を吸い取られたと考えられ、既に金凌や多くの修士たちも、その標的にされていることが判明した。

 莫玄羽(魏無羨)の乗っていたロバが、いきなり足を止め、逆方向へ走り出そうとする。ロバに振り落とされた莫玄羽(魏無羨)が手綱を引っ張った時、前方から「ガジガジ」「ゴクゴク」という音が聞こえてきた。見れば、伏せた食魂天女が捕らえた誰かを咀嚼しているところだった。
 一斉に、ロバと共に逆方向へ走り出す一同。
「あり得ない! 夷陵老祖が定義していたはずです。高級は魂を食べ、低級が肉を食べるって!」
 藍思追は受け入れられない様子だ。莫玄羽(魏無羨)は、「あんな奴の言葉なんて信じるな。法則も変わることはある」と。

 背が高くがっしりとした体の食魂天女が立ち上がる。そこへ一本の矢が唸りを上げて飛んできて、彼女の額に命中し、そのまま後頭部を貫いた。金凌だ。
「金公子! あなたが持っている信号弾を打ち上げてください!」
 思追が叫んだが、金凌は耳を貸さない。と、思追の剣が勝手に抜かれ、抜いた莫玄羽(魏無羨)が細い竹を切って何かを作る。それを口元に添えて息を吐き出すと、鋭い一本の矢のような笛の音が、夜空を切り裂き、雲の果てまで突き抜けた。
 思追は驚きのあまり唖然とし、藍景儀は手で耳を塞いだ。「こんな時に、なに笛なんか吹いてるんだよ! 死ぬほど下手くそだな!」

 この場面の魏無羨の行動を解説しよう。
 小説の中で食魂天女は「野良神」とも呼ばれているが、これは自然物であった石の造形を人々が長年大切に祀ってきたことで、いつしか魂を持つに至った存在である。付喪神の一種と考えていいだろう。神なので、陰陽でいうなら「陽」の存在だ。
 一方、仙門の修士たちが持つ法器は、妖魔鬼怪という「陰」の存在に立ち向かうための武器なので、法器自体「陽」の気を帯びている。「陽」は「陽」の力を打ち消すので、よほど優れた法器で、よほど優れた腕前の持ち主が立ち向かっても、対抗するのは困難と言えるだろう。
 「陽」には「陰」の気が有効だ。そこで魏無羨は笛を吹くことで、「陰」の存在である邪気が強く凶暴なモノを召喚しようとしたのである。何が呼び出されるか、全くわからないまま。

 チャランチャラン、チャランチャランと音をたてて、何かがこちらへ近づいてくる。食魂天女ですら動きを止め、ぼんやりと音が響いてくる暗闇の方に目をやった。音は突然やみ、人影が一つ、暗闇の中から現れた。
「……鬼将軍、鬼将軍だ。温寧[ウェンニン]だ!」

 莫玄羽(魏無羨)が笛を吹き、温寧が食魂天女と戦っているあいだ。食魂天女を倒した後、修士たちが温寧を取り囲み、これを捕らえようとする間。対抗しようとする温寧を、莫玄羽(魏無羨)が新たな旋律で押さえ込む時。温寧が逃げ出し、現れた藍忘機と莫玄羽(魏無羨)が睨み合う場面。
 そして、さらに現れた江澄が、莫玄羽を魏無羨が奪舎した存在だと思い、彼の法器・紫電[ズデン:普段は指輪の形をしているが、これを振るう時には鞭となる。奪舎した者がこれに打たれると、体と魂が分離し、魂魄が肉体から打ち出される]によって、莫玄羽(魏無羨)が一撃をくらったところまで、蘭思追に関する描写は無い。
 何かしようとはしていたのだろうが、未だ力不足な彼ではあまり役に立たなかったのだろう。

 「江宗主、もう十分じゃないですか。それは紫電なんですよ!」と叫ぶ蘭景儀の言葉に、更なる一撃を加えようとすることは止めたものの、莫玄羽を疑う気持ちが拭いきれず、これを捕らえようとする江澄。
 思追は、江澄が魏無羨を警戒するあまり、たとえ間違えて捕まえた相手でも誰一人として逃さず、雲夢[うんぼう:江氏の仙府・蓮花塢(れんかう)がある場所]に連れ帰っては厳しい拷問にかけていることを知っていた。莫玄羽(魏無羨)を連れていかせれば、生きて戻れるかも怪しいと考え、口を開く。
「江宗主、今目の前で起きたことが全てです。莫公子は奪舎されていません。それなのに、なぜそこまで構うのですか?」

 莫玄羽(魏無羨)は軽口を叩き、江澄には興味が無い、含光君みたいな男が好きだと言い出す。
「言ったな」
 と藍忘機。「この人は私が藍家に連れて帰る」と有無を言わさぬ口調で言い、思追たちは共に姑蘇へ帰ることになった。


 ここまで。今回は「大梵山夜狩」のシーンだった。金凌、江澄、藍忘機、温寧と、主要なキャラクターがだいぶ揃ってきて、物語はここからが本番という感じだ。
 アニメでは戦闘シーンなど、もう少し思追の出番があるのだが、小説では会話シーンばかりで、あとは右往左往している印象。まだまだ一人前ではないということだろう。信号弾の補充を忘れるなどの失敗も見られる。

 次回は、雲深不知処に戻った蘭思追の様子。ほんの少ししか出てこないので、できればその次に登場するシーンと合わせてお届けしたい、と思っている。

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