◎脇役列伝その1:藍思追(6ー3)
(◎脇役列伝その1:藍思追(6ー2)の続き)
藍忘機に禁言術をかけられ、話せなくなった秣陵蘇氏の宗主・蘇渉。藍啓仁ならこれを解くことができ、そうなれば藍忘機も年長者を立てて、再び禁言術をかけようとはしないはずだ。
ところが、藍啓仁は解こうとしないばかりか、睨んでくる蘇渉を一瞥もしない。この状況に魏無羨は疑問を感じ、藍忘機に「(姑蘇藍氏と秣陵蘇氏は)なんでやたらと仲が悪く見えるんだ?」と聞く。
すると藍思追と藍景儀が人込みをかき分けながらやってきて、景儀は「仲はもちろん悪いですよ!」と大声で答えた。
「秣陵蘇氏は姑蘇藍氏から分離した一派だ」と藍忘機。
思追は景儀の口を塞ぐと、声を潜めて説明した。
「魏先輩はご存じないと思いますが、秣陵蘇氏は、藍姓以外の門弟の方が、姑蘇藍氏から脱退したあとで自ら立ち上げた世家です。ですが、宗家の影から抜け出すことができなかったため、彼らの家の秘技は姑蘇藍氏とそう変わらないもので、音律を得意としています。しかも、宗主である蘇憫善の一品霊器までもが、含光君の七弦古琴とほぼ同じなんです」
景儀は思追を振り離すと、怒りながら勢い込んで話し始める。蘇宗主はどれもこれも真似するだけじゃなく、人から含光君の真似をしていると言われるのを殊の外嫌がって、指摘されると急に怒り出す、と。
「景儀!」
思追の様子を見て一度は抑えた声が、まただんだん大きくなって来たため、思追はやむを得ず彼を宥めた。
しかし、蘇渉の耳には既にはっきりと彼の話が聞こえていて、力尽くで禁言術を打ち破ると、十歳も老け込んだかのようにしわがれた声で、さすが雅正を家訓とする姑蘇藍氏は弟子への指導が行き届いている、と当てこすりを言った。
仲違いをしている時ではないと欧陽宗主が口を挟むと、魏無羨と一団になっている姑蘇藍氏は仲間ではないと蘇渉が言い、ここから秣陵蘇氏と姑蘇藍氏の間で言い争いが始まってしまう。
退魔曲を間違いだらけで弾いていた、と姑蘇藍氏の誰かが言った時、魏無羨が口を挟んだ。「山に登ったあと、全員がやったことがあった」と。
「なんですか?」と思追。
「彷屍を殺したことだ」
そのことで魏無羨は藍啓仁に質問しようとしたが、彼は藍忘機に聞けと言う。ここから魏無羨と藍忘機の一問一答が始まる。
まとめると。
姑蘇藍氏から分離した秣陵蘇氏は、姑蘇藍氏と十八番が同じ琴による破障音だが、技術的に劣っている彼らは戦曲の旋律を間違えることが今までにもあり、姑蘇藍氏の者たちは彼らの曲におかしいところがあったとしても、気に留めたりしない。
そのことを逆に利用し、蘇宗主は戦曲の一部を、一時的に人から霊力を奪う別の旋律に改ざんし、これを秣陵蘇氏の修士たちにも覚えさせ、合奏した。姑蘇藍氏の者たちは間違いがあることには気づいたものの、いつものことと気にせずにやり過ごしてしまった、と。
むろん蘇渉は誹謗中傷だと反論したが、魏無羨は懐から黄ばんだ二枚の紙を出して、これは蘇渉の主である金光瑶の密室から持ち帰った楽譜だ、これを藍啓仁先輩に渡して、先ほど演奏されたものと同じかどうか調べてもらおう、と言い出す。
蘇渉はこれを奪おうとするが、その時避塵(藍忘機の仙剣)が蘇渉に襲い掛かる。とっさに蘇渉は自分の剣・難平で防御したが、その瞬間、騙されたことに気づいた。
難平は剣芒を流しており、それは剣が霊力に満ち溢れていること、つまり蘇渉は霊力を失っていないということを示していたからだ。
藍忘機に激しく攻め込まれた蘇渉は、足元に赤い呪術陣があるのに気づくと、舌を噛んで口内に溢れた血を地面に向かって噴きつけた。戦うどころではなくなった藍忘機が陣を描き直そうと試みる隙に、蘇渉は伝送符で逃亡してしまう。
陣は破壊され、元には戻りそうにない。秣陵蘇氏の門弟たちは、呆然としたいた。件の旋律が間違ったものだということも、蘇渉のように霊力を失わずに済む方法があるということも知らされていなかったのだ。
そして、前方から激しい恐怖に震え上がった声がいくつか響いてきた。
「陣が破られた!」
「突っ込んでくるぞ!」
(◎脇役列伝その1:藍思追(6ー4)に続く)
今回、思追の出番があまりなく、特に後半は状況説明ばかりになってしまった。
次回は伏魔洞に入り込んできた凶屍たちとの戦い、第一弾。少しは活躍の場面があるだろうか。
しばしお待ちいただきたい。