☆35 風師娘娘(フォンシーにゃんにゃん)
タイトルに関する説明は、いずれアニメ二期一話の解説の折に。
罪人坑の底で刻磨と裴宿が言い争い、「半月人どもは極悪非道。殺して悔いはない」と裴宿が言った時、上から声が降りてくる。
「ずいぶんな言い方ね。じゃあ、あなたに手引きされてここで死んだ人たちのことも、殺して悔いはないと言い切れる?」
突然風が巻き起こり、謝憐たち六人は揃って上空へ巻き上げられた。罪人坑の上で風は止み、無事着地した謝憐たちに向かって、一人の男がよろよろと歩いてくる。「南風?」。
南風はぼろぼろだ。何だか顔も腫れている。
そしてその背後には、手にした払子を振る白衣の女冠と脇に立つ黒衣の女冠の姿が。
黒衣の女冠を見た時の三郎の表情が素晴らしい。アニメ二期で黒衣の女冠の正体を知った後でもそう感じるだろうが、日本語版原作小説(以下、原作と略す)三巻まで読んで黒衣の女冠の更なる秘密を知った後だと、「これしかない」というくらいの完璧さだ。
「風師殿」と白衣の女冠に跪いて言う裴宿。「えー、彼女が風師? 南風、何故言わない?」「気づくわけがないでしょう。彼の普段の姿とは…」
南風がさりげなく言うので聞き逃しな部分だが、中国語だと彼も彼女も同じ単語なので、もっとわかりにくいだろう。
風師は裴宿に事のあらましを確認。謝憐には砂嵐を起こしたのが自分であると告げる。その後「この件には、もう関わらないで」と言われ、半月が真犯人とされることを危惧する謝憐だが、彼女は半月の罪を問うつもりはない(天界にも連れて行かない)と答える。
風師の聡明さと公平性がよく分かる場面である。
風師は払子を片付けて扇子を取り出し、風を起こして裴宿、刻磨、黒衣の女冠、そして自分自身の四人を天界へと運ぶ。
この扇子は風師の第一法器(風師は他にもたくさん法器を持っている)で「風師扇(フォンシーせん)」といい、表に「風」(画面ではとても複雑な字だ)、裏には流れるように波打つ「三本線」が書いてある。払子は…何だろう。法器として使われているのは見たことがない。かなり気に入っているらしく、何もない時は常に手に持ち、会話をしながらよくこれを振っている。
アニメでは女性口調で話しているが、原作では男性口調だ。『天官賜福』は男性の登場人物が多いので、この「風師娘娘」の登場を心待ちにしている男性ファンは多い。風師は二期前半でたっぷり登場するので…あ。でもずっと妙な格好のままだったか。
とまれ、私も風師は大好きだ。
風師と行動を共にしている黒衣の女冠について、三郎はこう言っている。
「黒衣も大物だろうね。おそらく天界の五師のうちの誰かだ」
五師は「風師」「水師」「雨師」「地師」「雷師」の自然を司る五人の神官のこと。百人程度いる上天庭の神官の中から選ばれた五人なので、法力も高く、それぞれ得意な分野でずば抜けた力を持っている。但し武神ではないので、これに比べると戦闘の能力はやや劣るが、文神よりは上だろう。
三郎は続けてこう言う、「敵にまわさないで」。
この言葉くらい後に意味するところが変わるものはない。
何故敵にまわして欲しくないのか、この時点と二期を見た後ではその理由ががらりと変わる。そして原作三巻まで読めば、更に大きく変わってしまう。この短い言葉を頭の隅に入れておくと、後の物語がもっと楽しめるだろう。
場面を少し戻して。
風師たちが去った後、半月が吊るされていた竿の足元で謝憐は何かを拾い、「一体どうなっている」と言う。この場面の意味がちょっと分からない。拾った物は額当てに見えるが…過去の遺物を拾い、ここで起こったことに思いを巡らせているのだろうか。
どうなっている、とは天界へ上がった風師たちの様子のことか。この後南風が「干渉しすぎです」と言って注意を促すので、おそらくそうではないかと思うのだが、確証が持てない。
「裴将軍は裴宿を、西の武神の後釜にしようとしていました」と南風。風師と裴宿の会話で「今後の昇進」という言葉が出てくるが、これがそのことを指しているのだと思う。
ちなみに。「西の武神」に関する話は、二期で二度、謝憐が風師と極楽坊の地下通路を歩く時と、戚容が裴茗について話す場面で出てくるが、今のところ重要な話にはなっていない。原作三巻の時点でも未だ何も起こっていないので、とりあえず忘れておいていいだろう。
「裴茗なら大丈夫。自尊心が高く汚い手は使わない」と三郎。天界の事情に明るい様子がここからも見て取れる。
扶搖がいないことに気づく謝憐。風師たちが立ち去る場面までは確かにいたので、あの風に皆が気を取られている隙にいなくなったのだろう。「黒幕の読みが外れたから、恥ずかしくなって帰った」と三郎はいうが、あの後天界で何が起こるのかを確認しに行ったのかもしれない。まあ黙って立ち去ったので、いなくなる理由を言いたくなかったのは確かだろう。
目を閉じて横たわったままの半月に呼びかける謝憐。三郎は「兄さん。モノをしまえる術があったよね」と言って壺を出してくるが…。
これは後に「漬物壺」だと判明する。一体どこからそんなものを持ち出してきたのか、罪人坑の上にあったとは思えないし、元から持っていたとは考えたくない。(これはきっと「触れてはいけない謎」なのだろう。うん、忘れてしまおう。)
謝憐が壺を袖の中にしまうので、「そんなところに入れて大丈夫か、割れたりしないか」と心配するコメントがあったが、こちらはきちんと説明できる。
謝憐の着ている衣は「仙袍」と言って、袖の中が特殊な作りになっている。分かりやすく言うと、ゲームでいう「アイテムボックス」とか「マジックバッグ」とかと同じような働きをする物になっているのだ。つまりいくらでも入るし、重さを感じることもなく、中のものが壊れることもない。
謝憐の袖の中には、符やお守りなど自分の身を守るための品(謝憐自身が製作したもの)が常時入っている。もっともそれ以外には、大抵饅頭しか入っていない。
ちなみに彼は仙袍を三枚持っていて、洗濯してはそれらを着まわしているが、全て同じようなデザインなので、いつも同じものを着ているように見えるそうだ。
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