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◉陰虎符
タイトル画像は、アニメ『魔道祖師』前塵編一話より。死を目前にした魏無羨によって破壊される陰虎符(半分)。
「陰虎符」についていろいろ調べていたところ、英語版小説では「Stygian Tiger Seal」と言うらしくてひっくり返った。
「Stygian」はいい、「暗い。陰鬱な。地獄のような。」って意味だから。「Tiger」もまあ、良しとしておこう。でも「Seal」は違うだろう。
確かに「符」の訳として考えれば、符は大抵紙だし、よく魔除けのために柱や壁に貼ったりしている。或いは「印章」的な意味? ある意味合ってるが、陰虎符の訳としては不適当だ。
アニメの英語字幕だと、「Seal」が「Amulet」になっていて、形から言うと近い気もするが、やっぱり間違ってると思う。あれは「お守り」的なものじゃない。
そもそも切るところを間違えている。「陰/虎/符」或いは「陰虎/符」ではなく、「陰/虎符」だ。
「虎符」は「兵符」とも言い、主に兵士を徴集する時に使われたものだ。城門の出入り、或いは武器の供与に際しての証明などにも用いられたらしい。
本来虎符は「割符」で、片方を天子(皇帝或いは朝廷)が持ち、もう片方をあらかじめ地方にいる信任将軍や太守(郡の長官)などに渡しておく。兵を集めようとなった時、使者が天子の元に残された半分の虎符を持ってその地方へ行き、太守などの持っている半分と合わせてピッタリ合った場合に初めて兵を動員することができる、という仕組み。
好き勝手に兵を集めたり動かしたりすることのないように、こういう物を作ったんだろう。古くは青銅製、一般には銅製、竹製のものもあるとか。
下はネットから拾ってきた虎符の画像(骨董品として売られている物のようだ)。裏側に穴があったり膨らみがあったりしているので、ここがピッタリ合うか確認するポイントなのだろう。
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だから「陰虎符」は、「陰」つまり「死者」の兵を徴集するための法具、という意味の言葉だ。小説の中では「虎符とは号令を下すためのもの」と書いてある(1巻「第七章 朝露」)が、「虎符」の本来の意味を考えると、「徴集する」或いは「動員する」というところに重きが置かれていると見るべきだろう。
そも、魏無羨は横笛や舌笛の音で具体的な命を伝えている。陰虎符で呼び出し、笛などの音で操る、というところか。
陰虎符は一定の範囲内の死者を使役することができる。
魏無羨の発明品の一つだが、彼はそれを初めて使った時(射日の征戦時)にその威力に驚いて、とりあえず半分に割り、二つを揃えて合わせないと使えないようにしている。これも「虎符」が元々割符で半分に割ってあるものだから、それを元に考えられた設定だろうと思う。
兵符が虎符と呼ばれるのはそれが虎の形をしているからだが、何故虎なのかと言うと、虎は争いに敗れることがない百獣の王であるとして軍隊のシンボルとして崇められていたから、らしい。ただ、最初から虎の形だったわけではなく、昔は鷹や龍などを模った兵符も存在していたとのこと。
下はレプリカ(と言うか玩具)として売られている「陰虎符」の画像。
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これを見ると、真ん中の楕円形の玉を取り巻いているものが、背中合わせの二頭の虎であるようだ。陰虎符ネックレスというものも売られているようで、こちらの画像の方がわかりやすいかもしれない。
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(割った陰虎符をネックレスにするなーっ、と言いたいところだが、まあこういうのが好きな人もいるんだろう。ちなみに純銀製であるらしい。)
脚が短くて虎というより……否、虎だ。そういうことにしておこう。「デザイン:魏無羨」だろうから。陰虎符は恐ろしいものだけど、これだけ見るとちょっと可愛らしい感じがする。
陰虎符の素材となった物は、屠戮玄武の腹の中にあって、かなりの長期間に渡り屠戮玄武によって殺された者たちの怨念に晒されてきた鉄の剣だ。
この、言わば「陰の気の塊」を使って、魏無羨は陰虎符を作ったわけだが、前述のとおり威力が強すぎて、彼は使用直後にこの法具の高い危険性を危惧している。「過ち」を作り上げてしまった、と思ったようだ(1巻「第七章 朝露」)。
何より恐ろしい点は、陰虎符が誰にでも扱える代物だというところだ。鬼道を修めていない者でも簡単に扱える。悪用の可能性が極めて高いというところに、魏無羨は一番の恐ろしさを感じていた。
そのため、すぐに破壊しようと考えるのだが、簡単に壊れてくれるものではなかったことと、当時彼の立場がだんだん危ういものになってきていたため、とりあえず「半分に割る」という手段をとった。
そして、「血の不夜天」で二度目の使用。その後ようやく破壊に踏み切るが、「乱葬崗殲滅戦」が始まった所為で半分しか破壊できず、彼の死後、残りの半分が(おそらく金光瑶によって拾われた後)薛洋の手に渡り、彼によって欠けた半分が作り出され、不完全ながら復元されてしまう。
復元された陰虎符は、長時間の使用には耐えられず、威力も本物には劣っていたが、それでも十分な脅威だった。薛洋はその威力を、櫟陽常氏の一門の命を使って試したのではないか、と魏無羨は推測している。
義城で現れた彷屍の群れ。これは陰虎符によって呼び出されたものたちだったので、魏無羨は彼らを操ることができなかった。
「一度彼(魏無羨)に服従した傀儡は陰虎符に操られることはない。それと同じように既に陰虎符に操られている傀儡もまた、彼の命令に従うことはない。法則は単純かつ乱暴でーーつまり、早い者勝ちということだ」と小説の中では述べられている(3巻「第十四章 優柔」)。
この時は藍忘機(と温寧)の活躍で、操っていた薛洋共々、これを退けることに成功した。
薛洋は死んだはずだが、何者かによってその遺体は持ち去られ、持っていた陰虎符はおそらく再び金光瑶の手に渡る。
そして、乱葬崗で魏無羨を始め、仙門世家の合わせて千人もの人々を死の間際まで追い詰める、凶屍の群れが作り出された。
アニメ『魔道祖師』では最終話で、魏無羨と藍忘機が力を合わせて陰虎符を破壊し、後顧の憂いが無い形で決着をみている。
しかし小説の中では、復元された陰虎符について、その行方さえ曖昧だ。おそらく金光瑶が持っていただろうから、聶明玦の死体と共に封印されてしまったのではないか、というのが大方の見方ではあるものの、確証は何もない。
また魏無羨の見るところ、数回の使用に耐える程度の強度だと思われたので、最早鉄屑同然だとされているが、本当にもう使えなくなっているのか、それもわかっていない。
それを手にすれば、誰でも簡単に死者の軍団を作り上げることのできる陰虎符。その魔の魅力に取り憑かれ、行方を探して手に入れようと考える者が今後現れるかもしれない、と不穏な空気を残したまま、物語は終わっている。
現在、『魔道祖師』に出てくる術や法具などについてまとめているのだが、「陰虎符」についての説明文(一部考察)は長くなってしまったので、これだけ先に投稿することにした。
なので、この記事は「マガジン『魔道祖師』資料集」に入れておくことにする。後日この記事をもう一度見てみたいとなった時は「資料集」を見て欲しい。
多分こちらもいずれ目次を作ることになるだろう。今のところバラバラに並んではいるものの、記事数が少ないので、全体の記事の中から探すよりは探しやすいだろうと思う。
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