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◉魏無羨・前世での最期

 魏無羨年表の続きを書こうとしているが、過去編がつらすぎて気が滅入ってしまい、なかなか進めることができない。
 なので、代わりと言っては何だが、以前から気になっていた魏無羨の前世での最期について、書いてみようと思う。
 というのは、このnoteを検索してみるとわかると思うが、「魏無羨は実は江澄に金丹を渡した後、温晁ウェンチャオに捕まって乱葬崗に落とされた時点で死んでおり、のちの姿は『鬼』となった姿なのではないか」という考察を書いている方がいて、大いに感心したからだ。
 この考察は説得力があり、素晴らしいものだと思う。「好き」も付けた。
 ただ私としては、ここは素直に「この時点では運良く生き残って、乱葬崗らんそうこう殲滅戦で術の反動で死んだ」という従来からの説を支持したい。

 論拠としてはまず、物語の終盤、献舎後の魏無羨が乱葬崗へ誘き寄せられて、それを追ってきた修士たちが突然霊力を失ってしまい、やむを得ず共に伏魔洞ふくまどうへ逃げ込む場面。
 ここで出てくるのが「入り口で障壁となり、彷屍を寄せ付けない陣」だ。伏魔洞へ皆が入った時点では一部が欠けているので、藍啓仁ランチーレンがこれを調べ、欠けた部分を描き足しているが、この時彼は「遥か昔に描かれた年代物」だと判断している(3巻341頁)。
 なので、おそらくそれは魏無羨が描いたものではない。たった十三年前ではこのような表現にはならないと思う。

 ということは、魏無羨がその場所を棲み家とし、伏魔洞と名づけるよりもずっと以前に、そこにいた者が在ったということだ。
 乱葬崗はかつて戦場で、その時の屍でできた山だという。邪気が強くて怨念も濃い。温氏は山を塀で取り囲んで、人の出入りを禁止することしかできなかった。
 となれば逆に、乱葬崗に潜り込むことさえできれば、邪道を研究する者にとってそこは最高の環境と言える。洞窟に陣を敷き、彷屍などを簡単には近づけないようにして、自分は好きなようにそれらに近づき、または呼び出して、研究の成果を試すことができる。邪道の研究は禁忌なので、見つからないように密かに行わなければならないだろうが、乱葬崗ならばそもそも誰も近づけないので、邪魔されることもない。
(『陳情令』では、薛洋シュエヤンの祖先と思われる薛重亥シュエチョンハイという人物が、ここで邪道の研究を行なっていたという描写があったような……。)

 そしておそらく魏無羨が温晁によって乱葬崗へ落とされた時、その陣はまだ欠けてはいなかった。(欠けたのは、乱葬崗殲滅戦で大勢の者が伏魔洞内部にまで押し入った時だろう、と思っている。陣と気づかずに踏み荒らした結果ではないか、と。)
 しかも落とされる直前、「今はまだ昼だが、夜になったらどんなモノが出てくるかわからない」と温晁が言っている(3巻51頁)ので、落ちた直後には彷屍などに襲われてはいないと思われる。
 つまり落ちた魏無羨は、その衝撃で少しは傷を負ったかもしれないが、偶然洞窟を発見してそこへ逃げ込み、発動した陣のおかげでしばらくは内部で安全を確保することができた。以前にそこに住んでいた人物がいたとするならば、水や食料もある程度は確保可能だったと思われる。
 比較的安全だと思われる昼の内に食料の確保などに励み、傷を癒しながら残されていた邪道研究に関する物を読んで、それらを少しずつ試してみることで力をつけて行ったのだと思う。
 最終的に乱葬崗の彷屍や邪祟などは、打ち破ったかあるいは配下に従えるなどして、一帯を支配下に治め、傷も癒えた三か月後に外の世界に姿を現した、というのが私の推論だ。

 夷陵老祖と呼ばれるようになった魏無羨の性格が変わってしまった件に関しては、邪道の影響と見ていいだろう。邪術の行使が知らず知らず彼の精神を蝕み、怒りや恨みに支配されやすくなった、と。特に「陰虎符いんこふ」という邪物からの影響が大きかったのではないだろうか。

 結局、魏無羨が死ぬことになったのは、彼自身が語っているとおり、術の反動なのだろう。邪道は結局呪いであり、呪いの力でもって死者を操っているのだと思う。つまり術を制御しきれなくなったことにより、呪いが自らに降りかかった、と。
 彼は生前「完璧に制御できる」と言っていたが、それはできない可能性があると知っていた、ということでもある。
 乱葬崗殲滅戦の時は、体力的にも限界だったし、精神的にも追い詰められていた。多勢に無勢で、力の限界を超えた術を振るうことにもなっただろう。
 だからほんのちょっとしたことで、たとえば彼が「正しいことをしているはずなのに、なぜ全世界を一人で敵に回すような羽目になったのか」と、もし戦いの最中に思ったならその瞬間に気が逸れて、術の制御が困難になり、一気に呪いが逆流して彼の身に降りかかった、というようなことが考えられる。
 あるいはもっと単純に、邪術の影響が精神を限界まで蝕んだ結果、理性を失い術の暴走を引き起こした、と考えるべきかもしれない。

 復活した魏無羨も以前と変わらず邪術を使っているが、そこは藍忘機がぴったり張り付いているので過度な使い方は絶対にさせないだろう。それにもう陰虎符は持っていないので、ブレーキをかけることは彼自身にも可能だと思う。
 彼が入った莫玄羽の体は、おそらく金丹を持っていなかったと思われるが、今後の修行次第ではそれを獲得する可能性も残されている。かなり難しそうではあるが、藍忘機も全面的に協力するだろうし、もし体内に金丹を作ることができれば、寿命も伸びて、本来の修士としての力(仙術)を振るうこともできるはず。
 随便スイビェン(魏無羨の剣)をもう一度操ることができれば、彼の戦い方も随分変わっていくだろう。昔ほど「華麗に」とは行かないだろうが。


 ところで、タイトル画像。「みんなのフォトギャラリー」で『魔道祖師』を検索したら、意外にたくさん出てきて驚いた。ちょっと試しにやってみるだけのつもりだったのに。
 ということで、今回は「乱葬崗」のイメージ画像を選んでみた。陰鬱なイメージの付きまとう乱葬崗だけど、物語の時代から何十年も経ったら、意外に観光化したりして。名物として「辛いお粥」を売る魏無羨を想像してみたり。
 あ、ダメですか。藍忘機が椀によそってくれるかもしれないよ?

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かんちゃ
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