★8 花城の衣装
花嫁に化け、与君山にやって来た謝憐。山には陣が敷かれてあり、そこへ踏み込んだ一行は、狼と鄙奴の群れに襲われてしまう。南風と扶搖は護衛を連れて陣の外へ退避。一人残る謝憐の元へ、鈴のような澄んだ音と共に誰かが近づいてきた。
第一話の名場面である。
日本語版原作小説では、この時の花城の姿について、かなり詳細な描写がなされている。右手中指に結ばれた赤い糸、手首につけられた銀の籠手、蓋頭の下の隙間から見えた紅衣の裾、銀の鎖がぶら下がる黒革の長靴、それぞれについて謝憐自身の感想も含め、とても美しい描き方だ。
そしてその中の籠手の部分に、こんな描写がある。
中原のものには似ておらず、むしろ異族の年代物の品のようだ。
今回はこの部分から、話を始めよう。
花城の母親は、異民族の出身だとされている。そのモデルとなったのが、中国の少数民族「苗族」である。同系統の言語を話す人々は、タイ、ミャンマー、ラオス、ベトナムなどの山岳地帯に住んでいて、中国国内では「ミャオ」と呼ばれるが、これを差別的な呼び名だとして中国以外の地域では自称して「モン」と言うこともある。そのため近年では「ミャオ/モン」と併記されることも増えてきたらしい。
この「苗族」の伝統工芸の一つに銀細工がある。特に女性が婚礼の時に身につける冠などは、豪華で実に素晴らしい。小物も数多く作られ、銅鼓、蝶、魚、龍などの伝統的なデザインがあるという。花城の胸元の飾り、籠手、長靴の鎖は、この苗族の銀細工がモデルなのだ。
YouTubeで「天官賜福 花城 銀蝶」と検索してみてほしい。
【天官赐福动画X苗银非遗】苗域花开,银蝶归来
という動画が出てくると思う。
終始中国語で話しているので詳細はわからないが(中国語と英語の字幕が付いている)、どうやら苗族の銀細工工芸と天官賜福のコラボ動画のようだ。四分余りの短い動画だが、伝統工芸士だろう老師が、花城の胸飾りを実際に作ってくれるというありがたい企画が含まれている。
ちなみに。苗族は日本人のルーツだとする説もある。遥か昔に日本へ渡ってきた一部の苗族が現地民と混血し、今も日本人として暮らしているという。
さて。花城といえば、紅衣が最も目につく特徴だが、これは設定段階で「四大害」が、「四神」を元にその象徴する色を割り振られたからだろう。(それを示す記述を見たことは無く、私の考察に過ぎないが、これに関しては間違いないと思う。)
「四神」は天の四方それぞれを司る霊獣である。
北を司るのは「玄武」。玄は黒の意味で、亀もしくは亀に蛇が巻き付いた姿をした水の神である。四大害で黒は「黒水沈舟」こと「黒水玄鬼」で、彼が水鬼なのも玄武から来ているのだろう。
東を司るのは「青龍」。四大害では青鬼こと「戚容」が該当。「青灯夜遊」とも呼ばれる。
西を司るのは「白虎」。四大害では「白無相」、「白衣禍世」とも呼ばれ、仙楽国を滅ぼした元凶だ。
南を司るのは「朱雀」という朱い鳥。四大害では「血雨探花」こと「花城」が当てられている。
もっとも、鬼の支配領域に関しては、四神とは方角がかなり異なっている。
日本語版原作小説三巻には、黒水沈舟の縄張りである「黒水鬼蜮(『蜮』はまどわすの意)」について書かれてあるが、それによれば「(黒水沈舟は)外洋に隠棲」していて、その場所は「南海にある」となっている。
白無相は死んだとされているが、いずれにせよ現在(そして過去においても)支配領域を持っているような描写は無い。
花城の支配下にある「鬼市」は、郎千秋の守護する東方にあるとされているが、おそらく彼の影響力はもっと広範囲で、ほぼ全土に及んでいると考えていいだろう。
戚容については、ある程度勢力を拡大すると、花城がやってきて破壊していくような感じがする。各地を転々と渡って、何とか地盤を築こうとしているようだ。
ということで花城が朱を担当、鬼でありながらめでたさの象徴である紅衣を纏うことになったのではないかと思う。まあよく似合ってるから構わないだろう。
花城が身につけている特徴的なものは、他にもいくつかあり、曰くがありそうながら今のところは説明されていない物もある。いずれ全てが明らかになった時に、改めてまとめてみたいと思っている。
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