★24 善月草の伝説:死者の出産
謝憐は阿昭に善月草の生えている場所を訊くが、彼は知らないと答える。すると三郎が、善月草の特徴とそれに纏わる物語を語り出す。
三郎は言う、「善月草は背丈が低く、日陰を好む。葉は大きく、高い建物の側に生える」。日本語版原作小説(以下、原作と略す)ではこれに加え、「根は細い」「(葉の)形は桃を細くした感じ」と言っている。
また「王妃が摘んだ薬草」という伝説について、「罪なき蠍と毒蛇が国王に殺され、怨念が残った。蠍尾蛇は子孫なんだ」「王妃は気の毒に思い、善月草の葉を摘んで亡骸を包んでやった。それから善月草で毒が解けるようになった」と言う。
原作ではもっと詳しく書かれてあり要約すると、
「二匹は毒蛇の妖怪と蠍の妖怪で、深山で修練し一度も人を害したことがなかったが、これを捕らえた当時の半月国の国主(こくしゅ:君主のこと)が、毒を持っているならばいずれ人を害するとして殺そうとした。しかもこの国主は残忍で凶暴だったため、宴の余興として大勢の人の前で二匹に無理やり交尾させ、その後殺してしまった。
国主に逆らえなかった王后は、二匹の妖の骸の上に摘んだ香草の葉を一枚放り、被せてやった。毒蛇と蠍は強い恨みから邪悪なモノと化し、自分たちの交尾によって生まれた子孫が、半月国の民を殺すよう呪いをかけた。
このため、蠍尾蛇は半月国一帯にしか出没しないが、王后の一枚の慈悲ー善月草の葉があれば解毒出来る」
となっている。
こういう話を聞くと、私はまた要らぬことを考え始めてしまう。蠍と蛇ならおそらく子供は卵で生まれて来るはず。交尾後殺されたのなら、一体いつ卵を産んだのか。死後に産卵するなどということは可能なのだろうか、等々。
実は中国には、死んだ女が出産したという話が伝わっている。その話は…と此処でそれを書きたかったのだが、割と最近読んだはずなのに、どうしてもその話が見つからない。なので、申し訳ないが後に見つけることが出来た時に、この件りを書き直して改めて紹介したい。ご了承頂きたく乞い願う。
代わりと言っては何だが、日本の話を紹介しよう。
今は昔。とある飴屋に毎晩飴を買いにくる女がいた。店主が不審に思ってつけてみたところ、女は墓地に姿を消した。翌日、その寺の住職と共に調べてみると、土中から赤ん坊の鳴き声が聞こえてくる。掘り返してみれば、どうやら孕んだまま死んだ女が棺桶の中で出産したものと分かった。女はその子を育てるために、乳代わりの飴を求めて買いに来ていたらしい。子供は寺に引き取られ、長じて高僧となったという。
この話の本当に怖…否、凄いところは、この飴屋が現存しているというところである。今でも「幽霊子育飴」の名で、当時と変わらぬ飴を売り続けているのだ。「みなとや幽霊子育飴本舗」で検索すると、この飴屋が出てきて子育飴の由来も載っている。飴は綺麗な琥珀色で、刺激も雑味もない純粋な糖蜜の味であるらしい。
このように、死んで恨みを募らせる者もいれば、死してなお愛を注ぎ続ける者もいる。死者の世界は実に奥深い。
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