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◎脇役列伝・番外:莫玄羽(考察ー1)

(画像は『魔道祖師』前塵編一話より 魏無羨を呼び出そうとする莫玄羽)

 魏無羨を献舎で呼び出した莫玄羽。彼のことはほとんど語られていない。
 物語冒頭でいきなり死んでしまい、その後も出てこない人物なので、よくわからないというのが誰もの認識だろう。
 莫玄羽はどんな人物だったのか、彼に関する少ない記述から考察してみよう。

 莫玄羽の祖父は大地主で、「莫家荘」と呼ばれてるのはその持っていた土地一帯のことだろう。母親には姉がおり、これが莫夫人と呼ばれてる莫家の女主人だ。夫は婿養子。息子が一人いて、名を莫子淵。
 莫夫人は正室の娘だったが、その妹である莫玄羽の母親は侍女だったため、莫夫人は妹を子供の頃から見下していたものと思われる。この妹(莫玄羽の母親)は見目麗しい容貌を持っており、十六の時にこの地を訪れた仙門の宗主・金光善に見そめられて、逢瀬を重ね、一年後に男子を産んだ。これが莫玄羽だ。

 莫玄羽が四歳になる頃には、母親に飽きた金光善は会いに来なくなっていたが、十四歳になった年、使いを出して仙門に迎え入れた。
 蘭陵金氏の仙府・金鱗台にどのぐらい居て修行を積んだのかはわからないが、彼が仙門に迎え入れられた時、莫子淵はまだ幼かったこと、魏無羨が献舎された時の莫子淵が、十七を超える見た目であったことを考えると、五年以上十年未満というところではないだろうか。
 ともあれ、莫玄羽は何年かの修行の後、仙門から追い出されて莫家へ戻ってきた。その理由と莫家に戻った直後の莫玄羽の様子を、小説の中から抜書きしてみよう。

 莫玄羽は断袖(男色のこと)で、大胆にも同門の弟子につきまとった挙句、このことを衆人の前で言いふらされたのだ。加えてもともとの資質も平凡だったため、修行に関しても成長が遅く、彼を一門に残す理由はないと判断された。
 さらに悪いことに、莫玄羽にいったい何があったのか、莫家に戻った時にはまるっきりおかしくなっていた。ごくたまに正気に戻るものの、まるで何か恐ろしいものでも見て、精神をやられたかのようにーー。

 私は最初の断袖の件りで、「言いふらされた」というところが一つのポイントではないかと思っている。「言いふらされた」ことによって、莫玄羽が断袖であること、同門の弟子に付き纏っていたことが皆の知る事実となり、これを表向きの理由として、彼を追い返すことにしたのではないかと。
 「同門の弟子」というのは後に金光瑶だと判明するが、物語を最後までご覧になった方なら、金光瑶と「何か恐ろしいもの」という言葉に、結びつくものを感じるだろう。

 莫玄羽の母親は、彼が仙門を追い出された後、度重なる誹謗中朝に耐えきれず憤死している。伯母(莫夫人)は、そもそも気に入らなかった妹の息子なので毛嫌いする。伯父は伯母の言いなり。甘やかされて育った従弟(莫子淵)はプライドばかりが高い、横柄で自分勝手な乱暴者。家僕までが調子に乗って、莫玄羽を馬鹿にし好き勝手に振るまう。
 次第に追い詰められた莫玄羽は、死を望むようになり、同じ死ぬなら憎い者たちを道連れに、と献舎の術を試みる。

 莫玄羽に関する最大の謎は、どうしてあんな奇妙な化粧をしていたのか、ということだろう。気がふれていたことは間違いがないので、誰もそれを疑問に思っていないが、莫玄羽にしてみれば、何らかの理由があったはずだ。
 一番考えられるのは、自分の素顔を隠す、ということだろう。かえって目立ってしまっているが、そこはまともな思考を持てなかったから、ということでいいと思う。問題はむしろ、誰から隠れたかったのか、というところにある。

 莫玄羽の外見に関する描写を今一度引こう。魏無羨が大梵山で顔を洗い、水に映った自分の顔を見る場面だ。
 穏やかになった水面に映ったのは、秀麗な顔立ちに垢抜けた雰囲気をした青年だった。まるで月光に洗練されたかのように清らかで、輝く瞳とすっきりした眉間、口の端は自然と微笑んでいるかのように上がっている。
 莫玄羽自身であった時(魏無羨がまだ献舎されていない時)は、こんなに穏やかな表情はしていなかっただろうと思うが、おそらく母親似だろう美しい顔立ちであることがわかる。

 莫家荘の者たちは、彼が化粧をしていようがしていまいがそれが誰だかわかっていただろうし、また莫玄羽も彼らから自分を隠そうとしていたわけではないだろう。
 となれば彼は、どこか他所から自分を探しに来る者がいる、と思っていたはずだ。そいつに遭ったらおしまいだ、絶対に自分だと気づかれてはならない、と。

 その恐怖感が、むしろ彼を死に追いやった最大の原因ではないだろうか。何故なら、献舎の術を教えた者にとっての莫玄羽は、その術を使って死んでもらわなければならない存在だからだ。目的は魏無羨を呼び出し、邪祟と化した左腕と対決させることなので、自動的にそうなる。
 となれば、莫玄羽を追い詰めるために、誰かが密かに彼と接触して、あることないことを吹き込んでいた可能性もある。
 少なくとも莫玄羽は、明らかに見張られていた。彼が献舎の術を使った直後に、あの左腕が現れたことがそれを示している。

 莫玄羽にはもう一つ謎がある。
 莫家に戻ってきた時には気がふれていた、ということだ。
 次項では、その原因について考察してみよう。

(◎脇役列伝・番外:莫玄羽(考察ー2)に続く)

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かんちゃ
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