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☆27 罪人坑:阿昭の思惑

 半月兵士に見つかり連行される謝憐たち。行き先は町はずれ、「罪人坑(ざいにんこう)」と呼ばれる不気味な場所だった。

 連行されていく道中、謝憐は三郎から「将軍」と呼ばれていた半月人が「刻磨(コーモー)」という名だと、またその由来を教えてもらう。「『怪力』という名でもいいのに」という謝憐の言葉に、「フッフッフッフ」と笑うのは刻磨だろう。この時点で刻磨が、中原の言葉をよく理解しているのが分かる。
 「罪人坑」という高い建物の前に着いた謝憐たちは、一列になってその長い階段を登るが、途中天生が崩れかけた足場の板を踏み抜いて落ちそうになる。相当に古い建物のようだ。謝憐は傍の壁に触れ、何か思うところがある様子。

 謝憐が壁に触れる場面、日本語版原作小説にはこう書かれている。
「(謝憐は)黙々と壁に手で触れながら歩き、おおよそこの壁が何でできているのか割り出した。壁は遠くから見ると土に見えるが、実はずいぶんと硬い石でできていて、しかもなんらかの呪法をかけられている可能性がある。おそらく非常に破りにくいものだろうこともわかった。」
 またその大きさについては、「横幅が三十丈あまり、高さは二十丈あまりで、厚みも四尺はある」とある。中国の今の単位で一丈は3.3m、一尺は33.3cmなので、横幅約100m、高さ約70m、厚み130cm余りというところ、アニメ画面での厚みはもっとありそうだ。

 この壁に囲まれた空間の下に向かって刻磨が吠えると、下から呼応するように沢山の怒鳴り声が聴こえてくる。「二人を落とす」との半月語を聞いた謝憐は、「私が盾になる」と拳を握りしめるが、それより早く阿昭が飛び出して刻磨に体当たりする。刻磨はびくとも動かず、捕らえた阿昭を穴の中へ投げ入れる。

 何故、阿昭はこんな無謀な行動に出たのだろうか。一見「仲間を守るため」と思われるが、アニメ11話まで視聴した方々なら「そんなことはありえない」と分かるだろう。この部分、少し考察してみよう。11話までを観ていない方にはネタバレになってしまうので、ご注意頂きたい。

 仲間を守るためでなかったのなら、「刻磨にぶつかって怒りを煽り、罪人坑へ投げ入れられる」ことを前提としての行動ということになる。それはつまり、一緒に此処まで来た者たちに不審を感じさせずに、穴の中へ行きたかったということだ。
 では、何故穴の中へ行きたかったのか。考え得る答えは二つ。
 1 どうしても下(穴の中)へ行かなければならなかった。
 2 どうしても上に残り続けるわけには行かなかった。
(3 それか、暇だった。<違う)

 11話まで観た方々なら分かるだろう。阿昭に、どうしても下へ行かなければならない、というほどの理由は無い。出来れば行きたくなかったはずだ。だが、彼はそうした。どうしても上に残り続けるわけには行かなかったからだ。

 行動を起こす直前、阿昭はずっと一つのものを見ている。罪人坑の上に立てられた柱のような棒、それに縛りつけられた少女の姿を。そして阿昭は知っている。死んだように見えるその少女が、やがて再び動き出すことを。
 また、刻磨も阿昭を知っている、特にその正体を。今は皆の影に隠れて誰だか気づかれてはいないが、じっくり顔を見ればその正体に気づくに違いない。

 この二人が阿昭に、その正体に気づき騒ぎ出すことは、彼にとって最も避けなければならなかったはずだ。自らの目的を達成するために、一緒に来た商人たちには絶対に正体を知られてはならないからだ。
 大勢の半月兵士に囲まれて、阿昭に逃げ場は無い。だから彼は罪人坑に飛び込むことを選んだ。何事もなく自ら飛び込むのはあまりにも不自然だから、むしろ刻磨にぶつかって、刻磨が怒りの余り、彼をよく見ないまま罪人坑に投げ入れる可能性に賭けた。たとえ刻磨が彼を罪人坑へ落とさなかったとしても、よろけたふりをして落ちればいい、と思っていたかもしれない。

 こうして阿昭はこの場から姿を消すことに成功した、まだ誰も彼の正体に気づかぬうちに。下へ落ちその場にいるモノに見つかっても、少人数なら相手にできる自信があったのだろう。上手く姿を隠す自信ならもっと。

 阿昭の行動に気持ちを乱される謝憐たちだが、刻磨は次の生贄に天生を選ぶ。何とかこれを避けたい謝憐は、半月語を駆使して説得を試みるが、刻磨は耳を貸さない。「しかたない。先に飛び降りよう」と謝憐は決意し…そして「あのシーン」がやってくる。

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