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☆52 『玲瓏骰只為一人安』

 仙楽宮の扉を開けることが出来ない風信は通霊陣で怒鳴り、風師がヒントを与える。慕情は早速賽子を作って振ろうとするが、風信に奪われて先に振られてしまう。着いた所はなんと女湯。怒った慕情が次に振り、着いた所は泥沼で鰐の妖怪が棲む場所だった。
 慕情が賽子を作った時、見えている目は「三」と「一」。風信が奪って出した目も「三」と「一」だ。どうやらこの賽子には偏りがあり、「三」と「一」しか出ないのではないだろうか。合わせて「四」だと「賽子を振った者が一番恐れる場所に行く」と花城は言っているが、慕情はとても綺麗好きなので泥沼を恐れていたとしても納得する。
 二人は喧嘩を始め、賽子はもうどこへ行ったかもわからない。

 「三郎、目の合計が二なら君に会えるの?」と謝憐は訊くが、花城の答えは「否」。
「もし俺に会いたかったら、どんな目が出ても俺に辿り着く」
 心の水辺に一雫の水滴が落ちて波紋が広がる。謝憐は何を思ったのだろうか。

 それを言おうとする前に、「俺はここだ!」と叫び声がして、雷と共に一振りの剣が、続けて郎千秋が上空から飛び降りてくる。
 神武殿では、謝憐がまだ腕に傷を負っていてうまく使えない状態だったので、郎千秋は自分で自分の右腕を折ってまで対等な決闘をしようとしていたが、その傷は治したのだろう、万全の状態で「決闘だ、国師!」と再度謝憐に迫ってきた。
 落ちてきた剣は「芳心[ファンシン:美しい心]」と名付けられた剣で、「これはあんたの剣だ」と郎千秋は言う。元々芳心国師の名もその剣から取ったのだろう。日本語版原作小説(以下、原作と略す)には、「まるで黒い玉で鍛造されたかのような神秘的な深みがあり、鏡よりも滑らかな剣身は、近づけばそこに自身の姿がくっきりと映し出されるだろう。唯一、剣身の大部分を貫くように白銀の非常に細い線が通っていて、まるで潔白な心を表しているようだ。」とある。

 花城を制し、謝憐は剣を手にする。剣は自ら唸り、花城の目は魅入られたかのようにそれに惹きつけられる。
「君が言い出した」「この戦いは、結果がどうであろうと、後戻りできない」
 謝憐は走り寄り、郎千秋は全力で迎え討とうとして…何かに足を取られて動けなくなり、そのまま倒され縛り上げられてしまう。謝憐の法器、若邪だ。
 「はあ、危なかった」と謝憐は芳心剣を放り投げる。「布で不意打ちとは卑怯だぞ。男なら剣を使え」と郎千秋。神武殿でも彼は「男なら剣を取ってみろ」と言っていた。剣で戦うのが男という者だ、と思っているのだろう。謝憐のことを男らしくないと言っているように聞こえる。
 この場面、原作には「男らしくないと謗りを受けたところで、謝憐は女装したことすらあるのだ。さらに口癖のように『勃たないんです』などと言っているような人が、そんなことを気にするはずがない。」とあって、クスッと笑わせる。

 余談だが、世の中には「女装は男しかできないので、男らしい行為だ」という説がある。最近は台湾のBLゲームのキャッチコピーに「男の子は男らしいものが好き。例えば、男!」というのがあって、ずいぶん話題になっていた。

 それはさておき。「不意打ちも立派な戦術の一つ」「前に話したでしょう? 私を勝手に神聖な存在に祀りあげるな、と」、と話す謝憐。この辺り、かつての師弟関係を彷彿とさせる。
 立ち去ろうとする謝憐を呼び止めて、郎千秋は過去を問う。父王が国策として推し進めた永安人と仙楽人の共存共栄。芳心国師の死後、周囲の反対を押し切ってその志を継ごうとしたこと。五年もの間隠し続けた芳心国師の身の上。事件が起こったのが何故あの日だったのか…。
 そして郎千秋は叫ぶ、「俺の心をあんたみたいに怨恨で埋め尽くそうとしたって、そうはいかない。俺はあんたみたいに自暴自棄になんかならないぞ。どんな目に合わされても、絶対にあんたみたいにはならないっ」。
 唖然とした顔で聞いていた謝憐は、次第に大声で笑い出すが、月を見上げる目には涙が浮かぶ。
「そうか。よく言った。今の言葉を覚えておきなさい。決して私のようになるな」

 尚も言い募ろうとする郎千秋だったが、その瞬間花城が術を使い、赤い煙が立ち込める。それが消えると、千秋のいた場所には小さな人形があるばかりだった。
 この人形は「不倒翁[ふとうおう]」と言い、日本では「起き上がり小法師」と呼ばれている。謝憐はそっとそれを手にするが、花城は弾いて遊び、「どんな姿でも間抜け面は変わらない」と言う。くりっとした目だけが不満げに動くのが愛らしい。

 「元に戻してあげて欲しい」と謝憐は言ってみるが、花城は「否、連れて行く」と言って賽子を放り上げる。景色がぐるりと一回りし、どこかの洞窟の前に二人は立っていた。「兄さん、着いて来て」と言われた謝憐は、傍の芳心剣を背にし、洞窟の中へ足を踏み入れる。

 尚、記事タイトルは「玲瓏な賽はただ一人のために」で、アニメ七話に該当する原作の章題である。

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