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心残り

 五月の終わり頃、主人を亡くした。葬儀までの数日間は本当に慌ただしく、よく眠れない日が続いた。終われば終わったで、いろいろな手続きや連絡に手を取られ、少し前倒しに設定した満中陰(四十九日)法要と墓への納骨も終わって、ようやく一息ついた七月のある夜。

 夢に主人が現れた。
 外出していたらしい私が家に戻ると、そこに主人がいて、
「わし、生き返ったんや」
 と言う。おかしい。体は疾うに焼いてしまったし、骨はもう墓に入っているはず。その骨も全身には足りないはずだ(関西の骨壷は小さくて、全ての骨を納めることができない)、と妙に冷静なことを考える私。生き返った時には裸だったらしく、
「服はその辺の物を着たんやけど、パンツが無いんや」
 確かに。亡くなった後衣類の整理をして、パンツは全部捨ててしまった。一度でも履いたパンツなど人にあげるわけにもいかないし、私が履くというのもちょっと。
「買うてきてくれへんかなあ」
 え、今からか。何処で買うのがいいかなあ…と考えている辺りで夢は終わった。

 この話を友人にしたら、彼女は真面目な顔でこう言った。
「それ、四十九日だったんやない?」
 え、そうか? 数えてみると確かにその通りだった。
「きっと、ご主人が最期に会いに来たんよ、心残りのないように」
 多分その時友人は、あなたの様子が気がかりでご主人が見に来たのよ、と言いたかったのだと思う。しかし、私はこう答えてしまった。
「え、心残りって…パンツのことが?」

 考えてみれば、最期の数ヶ月は寝たきりで、ずっとオムツだった。納棺の時もオムツのまま。パンツは長らく履いていなかった。
 友人は笑いを堪える顔でこう言う。
「きっと、パンツをお供えしてくれ、ってことやと思うわ」
 えーっ、パンツを?

 今からお供えするには、まずパンツを買いに行かなければならない。しかもその後残されたパンツはどうする? また捨てるのか? うーん、それもなあ….。
 さんざ悩みながら、未だにパンツはお供えしていない。

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かんちゃ
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