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オネエ言葉

 昔、同性愛者のコミュニティ(ネット上の)に出入りしていたことがあって、その中に「外専(外国人専門)」の男の子がいた。仮にA君としておこう。
 一度会ったことがあるが、年は二十代半ば、背が高くて、まずまずのイケメン(ちょっと可愛い感じ)で、太ってもおらず痩せてもおらず、当たりはかなり柔らかい、という印象だった。そんなA君は、外国人(白人)のおじさまをヒイヒイ言わせるのが好き、だそうで、相手との会話は英語だが、話せるのは睦言程度とのことだった。まあそういう付き合いなので、それで十分ということだろう。

 そんな彼に、私はある日、あまり深く考えることなく「英語にもオネエ言葉ってあるの?」と聞いてみた。するとA君はこう答えた、「外国語にオネエ言葉があるかどうかは、まずその言語に女言葉があるかどうか、それによる」と。
 おお、なるほど。それは考えてみなかった。

 日本語にはさまざまな言い回しがあって、特に主語や語尾によって、男か女か、子供か大人か、若者か老人か、都市住まいか田舎住まいか等々、その地位や品性まで、意図すれば言い表すことができるが、外国語はそれが誰であっても同じ言葉でしかないことも多い。中国語はその典型だ。
 女言葉がなければオネエ言葉もない、というのはまさに目から鱗だった。女言葉のない言語の、例えば映画の字幕や吹き替えなどで、もしオネエ言葉で話す人物が出てきたら、それは翻訳家の努力の結晶なのだ。

 そんなA君だが、それからしばらくして、その彼氏が母国へ帰ることになると、一緒に着いて海を渡ることに決めてしまった。彼と結婚するのだと。両親は泣いて反対したが、A君の決意は固く、最終的には「日本より、外国の方がゲイに理解があるだろう」と許すことにしたらしい。今から数十年も前の話だから、当時は両親もそういう認識だったのだろう。
 今頃はA君も立派なおじさまになっているはずだが、連絡を取り合うほど仲が良かったわけではないので、どこでどうしているかはわからない。

 ところで。オネエ言葉はとても伝染しやすい。当時「二丁目」に出入りしていた者は皆、もれなくオネエで話していた。ゲイだけでなく、ビアン(レズビアン)もだ。行ったことのない私でさえ、彼らの話を聞いているだけで見事に伝染ってしまった。
 ある男性は、切符の払い戻しで駅員と揉めた時に、ついカッとなって「ちょっとあなた、いい加減にしなさいよね。一体どうなってるのよ」と口からオネエが出てしまい、駅員を仰天させたらしい。
 大変に危険なので、迂闊には近寄らない方が良さそうだ。

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