☆5 上天庭と中天庭
相逢小店で、中天庭の神官、南風、扶搖の二人と出会い、手を貸してもらえることになった謝憐。南風は南陽殿、扶搖は玄真殿から来たと聞き、謝憐は思わず茶を噴き出してしまう。
『天官賜福』の世界での天界には、上天庭と中天庭がある。
上天庭と中天庭があるのなら、下天庭はあるのか?
いや、ない。
と、日本語版原作小説(以下、原作と略す)には書いてある。
それによると、以前は上天庭と下天庭だったが、「下」はあまりに劣っている感じがして気分が良くない、ならば「中」ではどうだろう、ということで改められた、と。
名前を変えたところで中身は同じなのだから、大して意味は無いように感じるが、そんなことを言い出してそれを認めてしまう辺り、これは相当数の神官が大層見栄っ張りであることを示すエピソードと思う。
で。その二つの違いだが、上天庭の神官は自力で飛翔した神官、中天庭の神官(『厳密に言えば「神官」ではなく「同神官」と呼ばれるのが、大抵その「同」は省略されている。』と原作にはある)はその臣下という関係だ。神官には武神と文神がいるが、武神なら武官、文神なら書記官という感じだろうか。
飛翔の際、飛翔する者は従者を連れて行くことが出来る。これを点将という。
この点将された者が、中天庭の神官だ。書かれてある内容から推察するに、上天庭の神官は皆自分の宮殿を持っているが、中天庭の神官は持っておらず、住み込み或いは通いで上役の仕事を手伝ったり、身の回りの世話をしたりするようだ。
中天庭の神官は、自力で飛翔出来なかった神官とも言えるが、わざわざ呼ばれて連れて来られるくらいだから、いずれも優秀で、天界に来てからいくらも経たない内に、天劫を乗り越え自力飛翔に至る者もいるという。
さて。謝憐は最初の飛翔の時に、風信と慕情の二人を点将して天界に入った。その数年後謝憐が貶謫された後、二人は自由を得て修行を積み、天劫を乗り越えて飛翔を果たし、それぞれ、東南を守護する「南陽将軍」、西南を守護する「玄真将軍」となった。
今や二人は押しも押されぬ大将軍、対して謝憐は「三界の笑い者」とまで言われる落ちぶれた存在、因縁の間柄に天界中が注目しているようだ。
謝憐が貶謫された時、最後まで付き従わなかったことについて、風信と慕情には少し後悔があるような素振りが見える。何かしらの事情があったような様子も。
だが、謝憐は気にしていない。立場が逆転したかのような状況にも、わだかまりなど無いように見える。
もっとも、それに関して外野が好き勝手言うのは、少し鬱陶しく思っているかもしれないが。
そんなわけでおそらく、「少しこの二人とは距離を取ろうかな」と考えていただろう時に、南陽殿の南風と玄真殿の扶搖が来てしまったのだから、茶も噴こうかというものだ。
謝憐の手伝いをすることについて、二人とも「うちの将軍は知りません」と言うが、何だか態度が悪く、「よろ・こん・でっ!」も刺々しい。しかもこの二人の仲は相当に険悪で、前途多難な予感のする謝憐である。
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