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◎脇役列伝その1:藍思追(6ー6)
(◎脇役列伝その1:藍思追(6ー5)の続き)
乱葬崗・伏魔洞内にある血の池から、正体不明の血屍が次々と這い出てくると、すぐさま他の凶屍と殺し合いを始めた。
乱葬崗の死体は、魏無羨が死んだ「乱葬崗殲滅戦」の折、全て焼き払われたはずで、その場所に凶屍がいるのはおかしい、と金凌。だが実際は、五十あまりの死体を全て血の池に放り込んでいたのだ。
それを知っている者たちは、現れた血屍の正体が温氏残党だと気づいた。
次の場面は藍思追に関する重要なところなので、少し長いが引用しよう。
突然、金凌が叫んだ。
「危ない!」
血を垂らした紅い人影が跳び上がり、藍思追の前に着地した。剣を手にした彼が後ろに二歩下がると、その血屍はゆっくりと起き上がる。
それは、殊の外痩せて背中が曲がった一体の小さな血屍だった。頭はどうやら誰かに穴が開くほど砕かれ、まばらな白髪は血に浸されていたせいでちらちらと額にくっつき、加えて全身の肉も半分ほど腐っている。その様子はぞっとするほど不気味で、見た者の気分を害するほどだった。小さな血屍は立ち上がると、片方の足を引きずりながら、ゆっくりと藍思追に近づいていった。少年たちは皆、驚きおののいて、慌てて藍思追と血屍を囲むように集まってきた。
生きた人間が多くなると、血屍はしきりに警戒し、喉の奥からグーグーという唸り声を出した。少年たちがまるで大敵に臨むかのように一層警戒を高めると、藍思追は慌てて声を上げる。
「動かないでください!」
本当は彼も少し緊張しつつも、なぜかわからないが、恐怖は感じなかった。
その痩せ細って弱々しい血屍にもし目玉があったなら、おそらくは彼を見つめているはずだ。血屍は首を傾げながら、伸ばした片手をゆっくりと藍思追に近づけていく。どうやら彼に触れたいようだ。
その手は血みどろで、まるでかじられて欠損している鶏の脚のように見え、少年たちの全身に鳥肌が立った。金凌が剣を持ってその手を防ごうとするのを見て、藍思追はとっさに制止する。
「金公子、やめてください!」
「じゃあどうするんだ!?」
「あなた…… あなたたちは、とりあえず動かないでください」
藍思追は、金凌と他の皆にそう頼んだ。
その血屍が細々とした声を二回上げると、彼は気を落ち着かせてから、血屍に向かってゆっくりと手を伸ばした。
殊更に不気味に描かれる小さな血屍の様子。それに対して思追は、周りの少年たちとは違い、恐怖も身の危険も感じていない。
それが何故なのかは、未だ思追自身もわかっていないが、頭のどこかで何かが彼に何事かを告げようとしているのだろう。知っている人のような気がする……もしかしたら、そう思ったのかもしれない。
「第十九章 丹心」の前には、過去の出来事について書かれた部分がある。読者はそれを経て、この場面に辿り着く。思追が何か予感めいたものを感じているように、読者もここで何かを予感する。もしや、この血屍は……思追との関係は……と。
(アニメではこの場面、血に染まったぬいぐるみのような物が出てきて、それを渡そうとしながら、その血屍がしわがれた声で思追に向かって「……阿苑」と言うので、よりわかりやすくなっている。)
思追がその血屍にもう少しで触れるという時、新たな屍の群れが押し寄せてきて、血屍は瞬時に振り向き、その屍の群れの中へ飛び込んでいってしまう。
温寧はその血屍に向かって叫ぶ。
「あなたですか!?」
全ての血屍が雪崩れ込んでくる凶屍たちと狂乱状態で殺し合う中、
「あなたたちなんですか!?」
温寧の問いに答える者はいない。
半時辰足らずが過ぎた頃、洞窟内は静かになっていた。凶屍たちを全滅に追い込んだ血屍たちは、魏無羨と藍忘機に向かって集まり始めた。
温寧は呟くように口を開く。
「四叔父さん……」
「おばあさん……」
一人一人を呼び、呼ぶほどに声を振るわせながら尋ねた。
「あなたたちは、ずっとここで待っていたんですか?」
魏無羨は唇を微かに震わせながら、何か言おうとしたが言葉にならず、代わりに深々と頭を下げて丁重に一礼し、掠れた声で礼を言った。
「……ありがとう」
藍忘機も同じく一礼した。
血屍たちはそれぞれがバラバラな動きで体を曲げると、両手を重ねて持ち上げ、二人に一礼を返した。
そして、まるで何かに体の中の精魂と生気を吸い取られたかのように、全員がその場に崩れ落ちた。
(◎脇役列伝その1:藍思追(6ー7)へ続く)
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