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◎脇役列伝・番外:薛洋ー1(「悪友」紹介)

 タイトル画像はアニメ『魔道祖師』公式サイトの「振り返りカットギャラリー」より。羨雲編第二話で、暁星塵シャオシンチェンになりすましていたことがバレた後の薛洋シュエヤン

薛洋[シャエ・ヤン]
 字は「成美チョンメイ」。(番外編「悪友」に記載。)
 櫟陽れきよう常氏チャンし一族皆殺し事件の首謀者。
 愛用の剣の名は「降災ジャンザイ」。その長剣の刃は、振り回す度にうっすらと陰鬱な黒い気を発する。

 こちらは『陳情令』の薛洋。悪の魅力に溢れていて、私は大好きだ。

『陳情令』ドラマ公式サイトより

 さて。『魔道祖師』の中のごく一部にしか出てこないながら、強烈な印象を残す薛洋。
 彼について書くにあたって、彼の物語の前日譚になる番外編「悪友」(小説4巻収録)について、まず紹介しておこうと思う。

 この物語は、乱葬崗殲滅戦らんそうこうせんめつせん直後の話だと思われる。(「魏無羨ウェイウーシェン十九歳の時の手稿を乱葬崗で手に入れた」と金光瑶ジングアンヤオが言う記述があるし、聶明玦ニエミンジュエ金光善ジングアンシャンがまだ死んでいない。)
 主な登場人物は、薛洋と金光瑶。主な舞台は、蘭陵らんりょうの町とその近郊の「煉屍場れんしじょう」と呼ばれる場所だ。煉屍場は薛洋が秘密裏に陰虎符いんこふの研究をするための土地で、金光瑤が金光善に願い出て彼に与えられたものだ。
 煉屍場はアニメには登場していないが、羨雲編第二話「呪いの印(アニメオリジナルストーリー)」に登場した地名「懐蒼山かいそうさん」が、この煉屍場に当たるのではないかと言われている。

 物語の序盤は、薛洋が蘭陵の町で傍若無人な振る舞いをして、その後始末に金光瑶が金を払うシーン。文句を言いながらも、薛洋とはそういう人物だと思っている金光瑶の様子が窺える。客卿という立場である薛洋に対し、金光瑶は笑って言う、
「このごろつきめ。屋台をひっくり返そうが君の勝手だし、君がたとえ通り中を燃やしたとしても私は何も言わないよ。ただ、一つだけ守ってくれればいい。金星雪浪袍きんせいせつろうほうは着ずに、顔をちゃんと覆って誰がやったのかわからないようにして、私を困らせるな」(「金星雪浪袍」は蘭陵金氏の校服)。
 あと、迷惑をかけられた男が「訳もなく、なんでこんなことを!」と言うのを受けて、薛洋は「別になんでもない。世の中、大抵のことにはもともと理由なんてないんだ。こういうのをとんだ災難っていうんだよ」と平然と答えている。

 次のシーンでは煉屍場に場面が移り、薛洋が作り出した凶屍きょうしの出来に不満げにしていると、そこに亭山ていざん何氏ホーし 何素ホースーが引きずられてきて、「彼は罪人だから、凶屍の錬成の材料にするといい」と金光瑶が言う。
 話をまとめると、彼は金氏が仙督せんとくの座に就くことを反対したために、罪をでっち上げられて罪人扱いになったらしく、しかも一族がこれに反発するのを見越して、金光瑶は(まだ何も事件を起こしていないどころか、何が起こっているのか把握さえできていない)何氏一族を皆殺しにしようとしているらしい。
 薛洋はこれに対し、何素の舌を切り取り、生きたまま凶屍にしようと考える。魏無羨のいうところの「活屍かつし」で、義城一帯で起こったことの前実験にあたるであろうエピソードだ。

 その次のシーンでは、彼らは蘭陵の町で、公務を金光瑶に丸投げして女遊びに現を抜かす金光善を探しに行く。ここではあの「息子? はぁ、もうやめよう」と言う金光善の言葉が出てくる。
 そしてその後、金光瑶から薛洋に「私の代わりに雲夢へ行って、ある場所を片付けて欲しい。綺麗にやってくれ」という頼み事がある。
 その場所は明確にされていないが、前段で金光瑶の母親らしき人物について金光善が悪し様に言っていることや、雲夢という地名から、おそらくあの「観音廟」が建つ前の場所(火事で焼けた妓楼)を指しているのではないかと思う。だとすれば、あの火事は薛洋が起こしたことになるが……。

 最後は蘭陵の町中で、薛洋と金光瑶が偶然、暁星塵と宋子琛ソンズーチェン宋嵐ソンラン)に出会う場面だ。
 薛洋の傍若無人な態度を見咎めた宋子琛との間で一悶着起こりそうなところを、金光瑶が中に入ってなんとか宥めてやり過ごす場面だが、ここにこんなことわざが出てくる。
「卑しい者から恨みを買ってでも、君主からは決して恨みを買うな」
 宋子琛のような清廉潔白な人間から恨みを買うような真似をすれば、相手も手強いし、手を出せば世間からも非難を浴びる(だから、避けるに越したことはない)と金光瑶が言うわけだが、この言葉は義城で魏無羨が薛洋に対して言った言葉、
「君主の恨みを買ってでも、ごろつきからは決して恨みを買うな」
の裏返しになっている。(否、多分、魏無羨の方が裏返しにして言っているのだろう。)

 番外編「悪友」は、立場のまるで違う薛洋と金光瑶の交流を描いているが、一方で、こちらの方が後で書かれた物語であるのに前日譚であるために、本編の伏線を散りばめたような構造になっている。
 生まれ持ってそうであったかの如く、常に勝手気ままに悪辣な行動をとる薛洋に対し、表面上は穏やかでありながら、己の利益のためには薛洋も及ばない悪辣ぶりを発揮する金光瑶の本性が、この話の見どころでもあり、二人が何故「悪友」という関係でいられるのか(薛洋が何故金光瑶に一目置いているのか)がよくわかる話だ。

 ということで、次回から薛洋の本編における言葉と行動を見ていこう。

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かんちゃ
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