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◉魏無羨の復活

(画像はアニメ『魔道祖師」羨雲編EDより)

 『脇役列伝』は基本、取り上げる人物の行動を順になぞっていく記事だ。なので、それ以外の人物の行動はほとんどを省いて書いている。
 だが主人公二人が出てこないと、やはり何か物足りないと感じてしまった。そこで、主にこの二人を中心にした考察記事を書くことにした。『脇役列伝』は毎週土曜日に投稿することにしたので、間の水曜日辺りに上げようか、と。
 『脇役列伝』と併せて、お楽しみ頂きたい。


 さて今回取り上げるのは、献舎(「舎」は体の意味)されて復活した魏無羨だ。
 遡ること十三年、乱葬崗殲滅戦で彼は死んだ。そしてその後、幾多の招魂にも応じず、また誰かを奪舎[だっしゃ:誰かの体を奪い自分の魂を入れること]することもなかった。
 これは彼が再び人前に姿を現すことを望まなかったからだろう。悲惨な死に様だったとはいえ、ある意味心残りなく、満足して死んだのだと思う。力及ばずといえどもやれるだけのことはやった、と。
 彼は自分が正しいと信じた道を選び行動したが、誰一人彼に賛同してくれる者はなかった。そんな奴らには、言い残すことすらないと思っていたのだろう。

 ところが彼は、思いがけず献舎されてこの世に復活してしまった。やれることはもう何もないと思って死んだのに、いきなり「やれ」と課題を突きつけられた状況だ。しかもその課題が何であるかさえわからない。戸惑うばかりなのも無理はないだろう。
 献舎されるのは「残忍な悪鬼邪神」が相場だから、納得もしていないが、
 こんなに大人しくて害のない亡霊、天上天下どこを探しても俺くらいのもんだろうが!

 と、自分で思っているところがおかしい。否、「俺くらい」は言い過ぎだとしても(「大人しくて」も怪しいが)、彼に害を働くつもりはないのはそのとおりだ。だが、世の中の者たちは誰もそうは思っていない。おそらく、ただ一人を除いて。

 魏無羨は一度死んでから、召喚されることによって莫玄羽という人間に生まれ変わったので、そういう意味では転生と言えるのだが、魏無羨は莫玄羽としての役割を初っ端から放棄してしまうし、特に別の人間になろうともしていない。時々莫玄羽のふりをしているが、彼は莫玄羽に会ったこともなければ見たこともないのででたらめだ。
 一応、魏無羨であることがわからないように隠そうとしているようなのだが、天真爛漫で悪戯好きな性格はそのままなので、一度見破った藍忘機には、もう魏無羨にしか見えなかったことだろう。
 アニメだと顔が変わらないので、他の奴らはどうして気づかないんだという感じだが、小説の中の彼は明らかに違う顔になっている。
 大梵山で、あの妙な化粧を川の水で洗い流した時の、魏無羨(莫玄羽)を見てみよう。

 穏やかになった水面に映ったのは、秀麗な顔立ちに垢抜けた雰囲気をした青年だった。まるで月光に洗練されたかのように清らかで、輝く瞳とすっきりした眉間、口の端は自然と微笑んでいるかのように上がっている。
 若々しい、見知らぬ顔だった。かつて天地をひっくり返し、血の雨を降らせた夷陵老祖、魏無羨ではない。

 なかなかの美青年だが、魏無羨は「豊神俊朗[ほうしんしゅんろう:顔は美しく、朗らかで生き生きとしていること]」と呼ばれたかつての自分が失われてしまったことを思ったのだろう、この後少し感傷的になっている。

 藍忘機にとっては長い年月だっただろうけれど、魏無羨がいなかった十三年は『魔道祖師』の時代背景から考えると、世の中がガラッと変わるほど長い時間ではない。
 修真界[しゅうしんかい:仙人となることを目的とする修行者たちの世界]で魏無羨が生きていた頃と変わったことがあるとすれば、清河聶氏[せいかニエし]の宗主だった聶明玦[ニエ・ミンジュエ]と蘭陵金氏の宗主だった金光善[ジン・グアンシャン]の二人が亡くなったことと、金光瑶[ジン・グアンヤオ]が宗主の座につき、仙門百家を束ねる「仙督[セントク]」になったことくらいだ。

 再びの生を受けた魏無羨は、藍忘機と再会し、最初は鬱陶しく、次第に頼もしく、最後はなくてはならない存在として(これは魏無羨がなくなる前、藍忘機が辿った感情の軌跡と同じに見える)、ずっと離れることなく旅をすることになる。
 邪祟と化した左腕の謎を追って出た旅は、魏無羨の名誉を取り戻す旅となるが、同時に彼がいなかった十三年間の秘密を暴く旅でもある。
 旅に出た時、魏無羨はその終着点が、彼の嫌った「雲深不知処[うんしんふちしょ]」になるとは思ってもいなかった。そして藍忘機にとっては、おそらく望み以上の結果だったことだろう。

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かんちゃ
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