
☆51 仙楽宮の門が開く時
謝憐が入った仙楽宮は、以前(最初に飛翔した時)のものと内装まで全く同じだった。謝憐は三郎を思い浮かべ、その様子を気にかける。ふと、懐に賽子が入っているのに気づき、これに息を吹きかけて振ってみる。賽子の目は「一」二つ。やはり借りた運気は使い果たしていたようだ。
そこへ慕情がやって来る。素っ気ない態度だが、薬を持って来てくれたらしい。地師が神武殿に着いた時も真っ先に治療に当たっていたので、医術に才能があるのだろう。その薬も慕情の作ったものではないだろうか。
君吾が応急処置をしてくれた右腕だが、まだ万全には程遠い。ありがたく薬を使う謝憐。「いい薬だ」と言っているので、かなり楽になったのだろう。そこへ風信もやって来て、神武殿での話の真偽を問う。謝憐はあっさり認めてしまい、鎮痛な面持ちの風信と興味深そうな慕情が、互いの表情にケチをつけ始め、過去の話も持ち出して、殴る蹴るの大喧嘩になってしまう。
自分の言うことを全く聞かない二人に、謝憐は外から応援を呼ぼうと仙楽宮の正門に向かうが、その時門が突然開いて、暗闇の中から数えきれない数の銀の蝶が舞い込んでくる。花城の死霊蝶だ。
何故花城が蝶を操るのかについて、「謝憐は花冠武神と呼ばれその神像は手に花を持っている。花に蝶は付き物なので、花城は蝶を操ることにした」というようなことを、作者が言っていたらしい。
風信と慕情は咄嗟に盾を展開してこれを防ぎ、謝憐にも盾の後ろに入るように言うが、謝憐は蝶を掌に止まらせて「可愛いじゃないか」と微笑む。すると突然謝憐の体が浮かび上がり、門まで引き寄せられると、誰かがそれを優しく受け止めた。「三郎」。
六話のタイトルは「万蝶、君を拯いて」。
私は初見当時「拯」の読み方がわからなくて、辞書を引いた。『拯[ジョウ]:丞[ショウ・ジョウ](すくうの意)に手偏を加えて、「すくう」意に用いる』とある。なんと、三国志の諸葛孔明などの役職でさんざ「丞相」という言葉を今まで聞いてきたが、これが「お助け大臣」という意味だったとは。今頃知る間抜けな私である。
ともかく「拯」は救う・助けるに手を添えて、より丁寧に助けることだろうと納得した。タイトルは、「花(謝憐)」を「蝶(花城)」が助けに来たということらしい。
風信と慕情は「殿下」「殿下」と口々に叫び門へと駆け寄るが、門は閉じてしまう。通霊陣で風信は「殿下、どこです?」と大声を出し、他の神官たちが何事だと陣へ集まって来る中、慕情は「謝憐が逃げた」と新たな爆弾を落とす。「何が『逃げた』だ、誤解を生むだろ。『攫われた』んだ」と風信が怒鳴って、場は更に混乱する。
と、ここへ花城が謝憐を通じて陣に割り込み、「久しぶりだな、諸君。息災かな? この俺が恋しくなかったか? 俺は少しも恋しくないけどね。とは言え、最近確かに暇だった。しばらく腕比べもしてなかったよなあ? もし暇で仕方がなくて俺に挑戦したい奴がいたら、熱烈に歓迎する」と言い置いて立ち去ってしまう。
神官たちは、このような騒ぎを起こしたのが花城だと知り、確かに奴ならやりかねないと思いつつも、絡まれたら身の破滅と、花城と目を合わせることすらせず、急に忙しくなったふりをし始める。
通霊を切った花城は「相手にしないで。行こう」と謝憐を促すが、引いていた手を急に離したため、謝憐は「助けに来てくれたと勝手に思っていたけれど、本当は極楽坊での出来事を責めに来たに違いない」と思い、懸命に謝り始める。
「俺のせいで深手を負って、なんで笑いながら俺に謝る? その上償うだって? どうして?」
花城はつらそうな、悲しそうな顔をしている。そして、厄命は泣いていた。
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