◎脇役列伝その1:藍思追(6ー2)
(◎脇役列伝その1:藍思追(6ー1)の続き)
魏無羨、藍忘機と共に、藍思追らが拉致され拘束されていた乱葬崗の洞窟から外に出ると、そこには千あまりの修士たちが来ていた。
彼らは外にいる彷屍の群れ、そして少年たちが拉致されたことも、全て魏無羨がやったことだと思い込み、過去の話も持ち出して、口々に魏無羨を責め立てる。
その時、新たな凶屍の群れが襲いかかってきた。修士たちはこれに対抗するが、突然彼らの霊力が切れてしまい、仙剣や呪符、琴や蕭で奏でた曲でさえ役に立たなくなってしまう。
藍忘機が古琴を取り出し破障音で対抗するが、一人では全てに対応できない。温寧もこれを手伝うが、逆に周りの修士たちから攻撃されて、耐えるばかり。
てんやわんやの大騒ぎの中、藍思追は皆の前に飛び出して声を上げた。
「皆さん、こちらに来てください、伏魔洞に入りましょう! 中の地面には非常に大きな陣があります。数か所だけ欠け落ちていますが、おそらくそこを描き足せばすぐに使えますので、しばらくの間は凶屍たちが入ってくるのを防げるはずです!」
秣陵蘇氏の宗主・蘇渉はこれを魏無羨の計略だと言い、中に入ろうとしていた者を止める。
だが、臆病で役立たずの聶懐柔は、じっとしていることができなくなり、清河聶氏の門弟一行を引き連れて、伏魔洞へと駆け込んだ。
「叔父上、入ろう!」
金凌は、気力体力の尽きた江澄を、強引に伏魔洞に引きずり込む。宗主・江澄が入ったことで、雲夢江氏の一行もついて行くことになった。
「叔父上!」
藍忘機の呼びかけに、最後まで戦うつもりだった藍啓仁も、彼の背後に多くの藍家修士、指揮を任された金氏修士がいることを思い出し、生きる望みを掴むために、両家の者たちを連れて中に入ることにする。
四大世家の者たちが全員中に入ったので、残りの者たちも慌てて雪崩れ込むように中に入った。
秣陵蘇氏の一行だけが残っていたが、魏無羨の「霊力を失っているくせにここに残るなんて、ずいぶんと勇気があるお方だな」という言葉を聞いて、蘇渉も結局門弟たちを連れて入っていった。
はるか昔に描かれた年代物の陣を調べた藍啓仁は、手のひらを切って滴った自分の血を使い、欠けた部分を書き足す。その途端、外の凶屍たちは見えない障壁に阻まれているかのように近づいてこれなくなる。
魏無羨は、皆が突然霊力を失ったことには理由があると考え、「皆で集まって食事をする余裕はなかったはずだから、毒ではないだろう」と推測する。
「きっと毒ではありません。それに、私は今まで人の霊力を突然消失させられる毒など聞いたことがないです。もしそんな毒薬があれば、きっととっくに多くの修士たちに大金で買い求められ、噂になっていたはず。その毒を巡って多くの血が流れていたに違いありません」
思追は加勢するように続けた。
一行の中には医者もいて、彼らの見立てでは「霊力の喪失は一時的なもので、回復には二時辰はかかるだろう」とのことだった。
そんなに長い時間、いつまで持ち堪えられるかわからない古い陣を頼りに、何を企んでいるのかわからない魏無羨と同じ空間で過ごさなければならないということに、皆の不安が募る。
だが、藍景儀が「毒じゃないなら、なんなんですか?」と話を戻し、それぞれが原因を考えるが、山頂にいた少年たちには影響がなく、外からやってきた修士たちにだけ霊力の喪失が起こった理由はなかなか見つからない。
蘇渉はこれ以上聞くに耐えられないと思ったらしく、「もういいでしょう? 皆さんまさか本当に奴と話し合おうとするなど、敵の言いなりになって鼻先を引っ張られて面白いのですか? 奴は……」と言いかけるが、突然顔色が一変し、言葉が途切れた。
秣陵蘇氏の門弟たちは驚いて宗主の元へ寄り、「魏無羨、今度はなんの妖術を使ったんだ!?」と怒鳴る。
「妖術ではありません! それは……それは……」
思追は言いかけて、自ら口を噤んだ。
傍らで傍らで端座している藍忘機が、七弦を押さえて琴の弦の震えを止めると、やかましく騒ぎ立てていた秣陵蘇氏の門弟たちは、それきり静かになった。
この場にいる藍家の者たちは皆、黙ったまま心の中で答えたーーそれは、姑蘇藍氏の禁言術です……。
(◎脇役列伝その1:藍思追(6ー3)に続く)