◎脇役列伝その1:藍思追(5ー1)
義城での一連の出来事を解決し、藍思追たちは、金凌の犬・仙子と魏無羨のロバ・林檎ちゃんを預けていた町まで戻ってきた。
この町の名前はわからないが、そもそも思追たちは櫟陽で合流して義城へ行くことになったので、櫟陽もしくはそこへ行くまでの途中にある町ということになる。犬とロバを預けていた場所は、文脈から考えて宿屋ではないだろうか。
「夕餉の時間だ」と藍忘機が告げ、仙子に怯えて背中にへばりついている魏無羨を引きずったまま、二階に上がろうとするが、他の者がついて行こうとすると、含みのある目で一同を見渡す。
思追はすぐさま彼の意図を汲み、公子たちに声をかけた。
「上座と下座は分けるべきなので、私たちは一階に残りましょう」
こうして彼らは一階に席を取り、運ばれてきた食事を一緒に食べることになったが、話をしている内に言い争いになり、怒った金凌が磁器の器を投げつける。
この時の会話、少し長いが抜き出してみよう。
全ての物事は自分で確認した事実を以て判断しようとする思追と、魏無羨に両親を殺されたという思い込みから抜け出せない金凌の対立だ。
金凌の知っていることは間違っているとまでは言えないが、事実の全てではない。ことに金凌の両親に関することは、魏無羨の意図してやったことではなく、結果的にそうなってしまっただけだ。
とはいえ、その結果は重い。金凌はなおも、雲夢江氏《ジャンし》は恩知らずな魏無羨のせいで壊滅状態に追い込まれた、身内を全て失ったのは彼のせいだと言う。思追もこれには答えることができなかった。
険悪な雰囲気の中、歐陽子真(義城で、板の隙間から見えた幽霊の阿箐を細かく観察して、「身なりを整えてあげたら可愛い美人になる」と言った少年)が恐る恐る口を挟み、「もうその話はやめよう」と言ったのをきっかけに、皆も調子を合わせて「喧嘩はやめて、食べようよ」と言い始める。
思追は、「申し訳ありません。私が至らないせいで失言をしてしまいました。金公子、どうぞ座ってください。これ以上言い争いを続けて含光君(藍忘機)の耳に入ったら、ここへ下りてこられて大変なことになります」と、いつも通り礼儀正しい様子で謝罪して、金凌を席へと促した。
金凌もようやく席に着き、その後はまた皆で賑やかに食事を続けることになった。
卓には酒も並び、飲酒を禁じられているはずの藍家の少年たち数人もこっそり飲もうとしていたところ、何故か二階にいたはずの藍忘機と魏無羨が、店の入り口から中に入ってくる。
次回はこの場面から続きを書こう。
(◎脇役列伝その1:藍思追(5ー2)へ続く)