◎脇役列伝その1:藍思追(1−1)
(画像は『魔道祖師』前塵編一話より 莫玄羽(魏無羨)を掴もうとする莫子淵を止める藍思追)
藍思追[ラン・スージュイ]
「思追」は字。名は「願[ユエン]」。姑蘇[こそ]藍氏の門弟。
物語の中心にいる人物ではないが、彼の「存在」は結末の印象を決定するほど重要な意味を持っている。
登場は物語開始直後から。
莫家荘[モーけそう](莫家の領地と思われる)では、最近大量の「彷屍[ほうし:低級の屍変者の一種]」が出現して問題となっていた。これを聞きつけた仙門の使者が莫家を訪れていたのだが、彼らは数名の少年たちで、この中のリーダーが藍思追である。
この少年たちに関する描写を見てみよう。
少年たちが纏っている服は、襟袖がふわりとしているのが風雅で、少し近寄り難い雰囲気があって非常に美しい。あの校服を見れば、姑蘇藍氏から来た者だと一目でわかる。しかも藍家の血筋で本家の弟子だ。なぜなら彼らは皆、額に指一本分の幅の同じ巻雲紋[けんうんもん]の抹額[まっこう:鉢巻きのように額に結ぶ装飾品]を結んでいるからだ。
姑蘇藍氏の家訓は「雅正[がせい]」。雅で模範的で正しく、その抹額は「自らを律する」という信条を表している。巻雲紋は藍家の家紋だ。大世家に頼っている別姓の門弟や客卿[かっけい]たちは、無地で家紋のない抹額を結んでいる。
つまり彼らは、仙門で生まれて仙門で育ち、今も仙門で学んでいる、正真正銘の浮世離れしたお坊ちゃまたちだ。彼らの兄弟子で姑蘇藍氏を代表する一人である藍忘機[ラン・ワンジー]の信条が『逢乱必出[ほうらんひっしゅつ]』なので、彼らも困っている人がいるなら助けようと、ここに来たのだろう。
そんな美しいものだけを見、正しい言葉だけを聞いてきたような彼らの前に現れたのが、外見「白塗りに大きく赤い模様をつけた姿の莫玄羽[モー・シュエンユー]」中身「十三年前に死んだはずが、献舎(自らの魂と引き換えに悪鬼邪神を召喚して、術者の体に入ってもらい、願いを叶えてもらう術)されて、莫玄羽の体に入った魏無羨[ウェイ・ウーシェン]」である。
少年たちの一人が、そんな莫玄羽の姿を見て吹き出してしまうが、隣の思追は嗜めるように一瞥して、真顔に戻らせる。その後、物を「盗った」「盗ってない」で
莫玄羽(魏無羨)は莫子淵[モー・ズーユエン:莫家の一人息子。莫玄羽の従弟]と揉めるが、莫玄羽の方が虐げられているらしい様子に、「公子、落ち着いてください」と莫子淵を止める。そして莫玄羽(魏無羨)が外へ逃げ出すと、立ち塞がるようにして本題を切り出す。
この辺り、冷静で公平な思追の性格が垣間見える。
「今晩、西の離れをお借りします。先ほどご説明したことを必ず守ってください。夕方以降、扉と窓をしっかり閉め、決して外を出歩かないこと。そして、西の離れには絶対に近づかないこと」
その後、思追たちは西の離れに移動し、屋根と塀の上に黒い旗を立てていく。
この旗は「召陰旗[しょういんき]」といい、一定範囲内の怨霊、悪鬼、凶屍、邪祟を全て引き寄せる物だ。生身の人間が持てばこれを攻撃し、屋根に立てればその家の中の全ての人間を攻撃する。魏無羨の発明品である。
藍思追は旗の布陣を指揮していたが、一人が、旗を奪おうとしている莫玄羽(魏無羨)と揉めているのを見て、ふわりと屋根から下りた。
「景儀[ジンイー]、そこまでにしなよ。穏便に返してもらえばいいじゃないか。声を荒げる必要はないよ」
「思追、本当に殴ったりしないよ! でも見ろ、旗をこんなにぐちゃぐちゃにして!」
藍景儀は思追の仲の良い友達だ。大抵いつも一緒に行動している。
思追は莫玄羽(魏無羨)に微笑んだ。
「莫公子、そろそろ日が暮れます。もうすぐ彷屍を捕まえるので、ここにいては危険です。早く自分の部屋にお戻りください」
ここで、魏無羨から見た、この時の思追に対する感想を抜き出してみよう。
彼は優しく雅な雰囲気を纏い、俗離れした容貌に笑みを浮かべて上品に話す。躾も礼儀も良くできていて、賞賛に値する少年だと心の中で褒めた。加えて、彼が指示した旗の陣形も規則正しく、立派に完成されている。
姑蘇藍氏のような古い堅物しか集まらない恐ろしい所で、いったい誰がこんなに優秀な若者を育て上げたのだろう。
物語を最後まで知っている方なら、「それは○○○」と突っ込むところだ。
思追が「その旗……」と切り出すと、莫玄羽(魏無羨)は「ただの下手くそな旗じゃないか。何を偉そうに! 俺ならもっと綺麗に描ける!」と旗を投げ捨て逃げ出した。
少年たちは莫夫人から、莫玄羽が痴れ者だと聞かされていたので、その様子にどっと笑う。藍景儀も憤慨しつつ苦笑して、召陰旗を拾い上げると埃を払った。
「あいつは本当におかしい!」
「そう言わないで。それより、早くこっちを手伝ってよ」と思追。
夜になって彼らは彷屍を呼び寄せ、これを制圧することに成功する。だがその後、東の大広間に向かった時、その廊下で亡骸を発見。それは、莫子淵の変わり果てた死体だった。
大広間には全ての家僕と親族たちが集められ、横たえられて白い布で覆われた死体を前に、思追と少年たちは小声で話しながらそれを調べていた。そこへ莫玄羽(魏無羨)が何人かの家僕によって引きずられてくる。
(以下、『◎脇役列伝その1:藍思追(1−2)』に続く。)
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