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◎脇役列伝・番外:薛洋ー3(その生涯・中編)
タイトル画像はアニメ『魔道祖師』公式サイトの「振り返りカットギャラリー」より。完結編第三話、死にかけていたところを暁星塵に助けられた時の薛洋。
今回は魏無羨が阿箐(義城にいた盲目の少女の幽霊)と共情して過去へ行った場面から。
阿箐の目を通して見る、薛洋と暁星塵の関係性だ。
先におさらいしておこう。
まずは当時の阿箐。彼女は生まれつき瞳が白く濁っており、他者からは盲目と思われていたが、実はちゃんと見ることができていた。身寄りがなく家も定まっていない彼女は、盲者のふりをして周囲の同情を買い、恵んでもらったもので生活していていると思われていたが、実際にはしばしばスリを行なって金を奪い、町から町へ流れ歩くような生活だった。
なので、修真界(古代中国で、仙人となることを目的とする修行者たちの世界)の出来事やそれに所属する人たちのことは、何も知らない。
一方暁星塵は、櫟陽常氏一族皆殺し事件を解決して名を上げたが、その犯人であった薛洋に逆恨みされ、報復として友人であった宋嵐にその害が及んでしまう。
失明した宋嵐を救うため、暁星塵は自分の目を差し出して、師匠であった抱山散人に宋嵐を治療してもらうが、そのため自分は盲目となっている。
その後はいずれの仙門(主に仙術を修行する世家、門派の通称)にも所属することなく、一人各地を放浪し、異象や祟りが起きている場所で事件の解決に当たっていた。
阿箐や薛洋に名を明かすことはなかったので、たんに「道長」と呼ばれている。
最後に薛洋。当時彼は数々の問題を起こしたことにより、仙督となった金光瑶によって「始末」されるところだったが、何とか逃げ延びて義城の近くまで辿り着き、虫の息だったところを暁星塵によって発見された。
暁星塵は盲目のため、相手が薛洋だとは気づいておらず、阿箐も薛洋を知らない。薛洋は気を失っており、されるがままだ。
さて。暁星塵は純粋に怪我人を放っておけないとの思いから、薛洋を背負って近くの義城に連れて行き、誰も住んでいなかった義荘に一時留まって、彼を回復させようと考える。
義荘で目を覚ました直後の薛洋の様子
薛洋のような人間は、悪事を重ねすぎたせいで、警戒心も相当に強い。その言葉を聞いてぱっと目を開け、すぐさま体を起こすと、座り込んだまま壁の隅までずりずりと後退し、身構えて暁星塵を睨んだ。その凶暴な目つきは殺気に溢れ、まるで捕らわれた猛獣のようだ。目の奥に潜む残虐さと悪意を一切隠さずにいる彼の様子を見ているうち、背筋に冷たいものが走り、阿箐は頭にぞわっと鳥肌が立つのを感じた。
この後、薛洋は暁星塵と少し会話をするが、喉が傷つき大量の血を吐いたせいで声が枯れていて、暁星塵は相手が薛洋だと気づけない。薛洋はそれがわかった上で、左手の小指が無いのを気づかれないために注意を払い、また大怪我をした理由を「聞かないのか?」とわざと自分から言って、相手を試している。
その時の彼には「気怠そうで得意げな笑み」が浮かんでおり、阿箐と共情している魏無羨は、『薛洋は暁星塵を騙して、図々しくも自分の傷を治させるつもりだ。そして傷が治れば、絶対に大人しく「各々の道に進む」はずなどない!』と確信している。
案の定、ひと月ほどで傷がほぼ治りかけた状態になっても、薛洋は三人で一つの義荘に暮らすことをやめようとしない。
そんなある日、薛洋は暁星塵の夜狩について行くと言い出す。そして、ある村へと暁星塵を導き、村人は全員彷屍だと嘘をついて、それを全て殺害させる。
番外編「悪友」の中に出てきた、煉屍場で行なっていた実験の成果を試したのだろう。藍景儀も義城で受けた屍毒の粉(生きた人間を彷屍に変える粉)のことだ。この粉を村人に向かって振り撒き、彷屍になった者、あるいは毒にあたりはしたがまだ助かる可能性のある者を作り出した上で、舌を切り落として話せないようにした。
そしておそらくは暁星塵の持つ剣・霜華が、噂どおり本当に屍気の方に向かって動くのか、確かめようとしたのではないだろうか。生きる屍となってしまった者と、屍気は発しているがまだ彷屍とはなっていない者、そのいずれにも霜華が反応するのかどうかを。
実験がうまく行き、薛洋は内心で大笑いしていたのに違いない。何も知らない暁星塵が、彷屍でもなく更には何の罪も無い村人を、全て殺してしまうのを見て、真実を告げた時の彼の絶望を想像して楽しんでいたのだと思う。
そしてその一方、暁星塵の前では大人しいふりを続け、あたかも友人であるかのようにふるまい、自分の意のままに操ろうとし続けた。
そんなことを何度も繰り返した後、ついに暁星塵を探しにきた宋嵐が薛洋の前に現れるが、彼は同じやり口で暁星塵に宋嵐を殺させてしまう。
ここに至って全てを陰から見ていた阿箐は、自分の目が本当は見えていることを暁星塵に告白し、薛洋から彼を引き離そうとするが、逆に暁星塵は阿箐を逃がし、薛洋との対決を望む。
薛洋の行動を責める暁星塵に対する彼の返答
「だったらお前は、なんで俺の邪魔をしたんだ? なんで常氏一族のクズどものために出しゃばったりする? お前は常慈安を助けたかったのか? それとも常萍か? ハハハハッ、常萍の奴、最初の頃はそれはそれは感激して泣いてやがったよな? でもあとになって、もうやめてくれってお前の助けを拒んだのはいったい誰だ? 暁星塵道長、初めから、全部お前が間違っていたんだよ。お前が人様の事情に首を突っ込むのが悪いんだ。誰が正義で誰が悪か、情けと恨みのどちらが大きいかなんて、他人に判断できるわけがないだろう? そもそも、お前は山から下りるべきじゃなかった。お前の師匠は賢いよ。どうして言う通りにしなかったんだ。山にこもってひたすら仙術を修練して、真理でも悟るのがお前にはお似合いだ。世間ってものが理解できないなら、入ってくるな!」
暁星塵は薛洋の言い分に一切を堪えることができなくなって罵るが、ここで薛洋は真実を告げ、罪のない人々の命、さらには親友までもその手にかけた暁星塵を嘲笑って、罵倒する。
「世の中を救うだって? 笑わせるなよ。お前は自分自身すら救えやしねぇ!」
「お前は何一つ成し得ず、完全に大負けしたんだ。でもそれは自業自得だよな。全部自分で招いたことなんだから!」
そして。絶望した暁星塵は自刃する。
この後の薛洋の行動はとても奇妙だ。
自分が追い詰めて死に至らしめたはずの暁星塵を、蘇らせようと考える。どうしてもできないとわかった後は、しばらく経って、たまたまやって来た魏無羨を脅してまで、その魂の修復を願う。
薛洋が何故このようなことを考えたのか、彼の物語の中の最大の謎について、次回は考えてみよう。
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