偏食突破大作戦6 ~実践Ⅴ ゲーム性をもたせる~
前回と同じく、今回の実践もトラウマと思い込みに効果があるやり方です。え?何言ってるの??・・・ってな方にまずはこちらから。
「幼児の偏食の理由」として、①味覚が未発達だから、②トラウマがあるから、③食べず嫌いだから、の3つを挙げました。
また、ひと口に「嫌い」と言っても、子供たちによってその度合いは様々です。
A:がんばったら食べられる
B:時間を掛けたり少量ずつだったりしたら食べられる
C:先生と交渉した分だけ食べる
D:先生が口元まで運ぶと食べる(自分からは食べない)
E:口の中で噛み続ける(飲み込まない)
F:食べない(口すら開けない)
G:拒否・隠ぺい(吐く、捨てる、床に転がして「落ちた(から食べない)」と言い張る、友達に食べてもらうなど)
この度合い、嫌いな食べ物があったとき、Aが最も理想的な姿で、Gに進むほど「がんばってほしいな~」という先生たちの思いが強くなります。
そして、できることならばGに至る前のD~Fの段階で、A~Cの段階に進めたらいいなと、手を変え品を変え様々な教育的テクニックを駆使していきます。
実践Ⅴ ゲーム性をもたせる
この実践は、上記の「偏食の理由」②や③をもち、「嫌い」の度合がA~Eの幼児に有効です。
楽しいと自発的に行う
これは偏食対策に限らず、いろいろな生活の場面で教師が行っていることです。片付けが終わった後、教室に戻るときに「よーいドン!」と競争してみたり、誰かの持ち物がなくなったとき、事件を解決する警察官や探偵の雰囲気で臨み、見付けた人にはポイントを付与したり(ポイントを貯めても特に何もないのですが、もらえるだけで子供たちは大喜び)。
実践Ⅲでは、「食べる量を示す」ことを紹介しました。
そんなときに、「ちょっとみんな聞いて!Aちゃんが牛乳50cc挑戦するって!」なんて知らせると、果たしてAちゃんはこれをクリアできるのかできないのか?ゲーム性が出てきて雰囲気が盛り上がります。当然Aちゃんもその気になり、もはやトラウマだの思い込みだのはどこ吹く風。ちょっと難しいかもしれないゲームをクリアしてみようと、そして皆の期待に応えようと、楽しんで挑戦するわけです。
環境構成で視覚に働き掛ける
ゲームを盛り上げる物的環境を2つ紹介します。
1つ目はストップウォッチです。これは特に、「嫌い」の度合がE、すなわち嫌いな物を飲み込まずにずっと口内に入れ続けている子に有効です。
嫌いな食べ物を、嫌いなのになぜ口内に入れて噛み続けるのか、理解に苦しむところもありますが、そのような幼児は一定数存在します。飲み込むタイミングが分からない、いつもお茶などで流し込むように食べていて、噛むことによる唾液の発生が少ないなどいくつか理由が考えられますが、これも本人次第なので、周りからは声掛けくらいしか援助ができません。
時計を示しながら、「長い針が○になるまでに食べる?」と本人と相談するのもありですが(これは目安を具体的に示すという意味では実践Ⅲの手法です)、ストップウォッチを活用すると一気にゲーム性が高まります。
数字や時間の感覚がある程度分かっていないといけないので、年長児向けの環境構成となりますが、最初は5分で食べられた物が、次は4分・・・3分・・・と短くなるにつれ、ゲームをクリアしていっているような、記録更新に挑戦するようなそんな感覚になり、自分からどんどん食べるようになります。
もちろん、記録を伸ばそうとするあまり、無理をして嘔吐するなどしていては元も子もありませんから、そこは加減が必要です。
以前書いたように、幼児は単位の概念(ここで言う分や秒など)はあまりありませんが、年長児になると数字の大小は分かるようになってくるので、ストップウォッチを見せながら視覚に働き掛けることで、「4が5になる前に食べられた!やったー!」となるわけです。
ゲームを盛り上げるもう1つの物的環境はシールです。幼児はシールが大好きです。日頃から、「シール帳」、「お便り帳」と呼ばれる物に、タイムカード替わりにシールを貼るのを楽しみにしている幼児も多いと思います。
シール自体も、単色のタックシールやキャラクターのシール、キラキラのシールや立体的に浮き上がったシールなど多様にあり、楽しさが倍増します。
上記のように、生活面にゲーム性をもたせるとき、ポイント付与を紹介しましたが、それを可視化したものがシールの活用です。苦手な物を食べられた!→シールゲット!→もっと集めたいからまたがんばろう!・・・これが(理由はともかく)自発性を高められるシールのメリットです。
5歳児になると(実践Ⅳで紹介した)暗示はだんだんかからなくなってきます。そんなとき、ゲーム性をもたせることが有効ではありますが、教師が気を付けないといけないのは、これはあくまで、トラウマや思い込みを楽しさとすり替えているだけに過ぎない、ということです。
ゲーム感覚で盛り上がり、偏食が突破できるのはいいのですが、将来的にはストップウォッチやシールがなくても同じように食べられることが理想です。このゲームをいつまで続けるのか、やめどきも教師は考えておかないといけません。
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