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1人だけ囚人のようでした

病棟では、ナースステーションに最も近い病室に入れられました。それだけ手のかかる人だと思われているんだろうな…と感じました。
その日の夜はあまり深く考えずに眠りました。疲れ果てていました。一日がすごく長くて、まるで1週間が過ぎ去ったような気がしていました。

次の日の朝、病院食が出ました。
思っていたよりも普段の食事に近かったです。
食欲が無かったので半分残してしまいましたが、おいしかった。そして、残してしまったことをひどく申し訳なく感じました。
朝食と一緒に出された温かいお茶は最初、鮮やかな青紫色に見えました。薬だ、薬のようなスープだ、と思って反射的にトレーの奥に押しやりました。
動悸が落ち着いてからもう一度恐る恐るフタを取って覗くと、鼻がほんのりお茶の香りを捉えました。生きるためのものだ…とじんわり胸がひらく心地がしました。

上手に生きられなかった人間が、上手に死ねずにここにいるというのもとても不思議でした。臆病だからもう身動きがとれなかったのです。生きていて良いとは思えないのに、死ぬのは怖かったし嫌でした。
病院の中でただ1人だけ囚人のようでした。観察者がいて、無害な、他の人と変わらない人間だと認めさせることが目的であるような感じでした。罪を犯して、その後すぐに後悔する無様な少女A。想定していたより罪滅ぼしの時間が長く再犯を諦める少女A。
たった十数時間の拘留でも信じられないくらい長く感じました。
同室の患者たちは、2時間ごとに処置を受けて叫びました。痛い、ふざけるな、もっと丁寧にできんのか…
不快と主張する権利が自分にないと知っていたし、何より病室で最も頭がおかしいのは自分かもしれないのです。何も言い出さずにただ鬱々と声を聞いていました。
恋人と会いたい。話したい。心配させているだろうから元気ですと伝えたい。そう思いつつ耐えていました。早く終われ、早く終われ…念じながら、解放されたくて、抵抗の意思がないと示す捕虜のように従順に言うことを聞いていました。早く帰らせてほしかった。

幸い血液検査の結果が良く、お昼には退院出来ました。
何もかもが嘘だったのかもしれないとぼんやりしながら家に帰りました。自殺未遂したのも入院したのも、誰か知らない人の話のようでした。
全てが早かった。早すぎました。
日常生活に戻るにも、恐らく早すぎたのです。

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