ウクライナ停戦と北朝鮮拉致交渉は実は繋がっている
就任を目前にしたトランプ大統領が最も重視するテーマの一つは、ウクライナ停戦です。
トランプとゼレンスキーはすでに電話会談と直接の会談を通じてかなりのコミュニケーションをとっています。
武器支援一本槍だったこれまでのバイデン政権と対照的に、一刻も早い停戦を志向するのがトランプです。ゼレンスキーもその前提に立ってトランプとの対話を進めています。「ウクライナを見捨てるのか」という日本メディアの批判をよそに、実は停戦はウクライナの望むところでもあるのです。
今のところウクライナとロシアの戦力は3倍と言われています。8項目の要素に見分けた時にも8項目中7項目と、あらゆる面でロシアがウクライナに優っている。ウクライナは圧倒的な戦力差の中、アメリカの支援によって無理して戦っているのが現状と言えます。
https://www.globalfirepower.com/countries-comparison-detail.php?country1=ukraine&country2=russia
ウクライナが勝つまでみんなで支えるべきという意見には、残念ながら現実味が無いと見るべきでしょう。
停戦=負けではありません。互いに一旦武器を置き、政治的な解決を目指しましょうという冷静な判断も時に必要なのです。
そして、ウクライナの停戦は、実は日本のある重要課題にとって大きな重要性を持っています。何にとっての重要性かと言えば、北朝鮮拉致被害者の奪還です。
ウクライナの戦争が長期化することによって今、拉致被害者の奪還は遠のいています。一見すると関係なさそうな2つの出来事は、実際には密接に繋がっているのです。
大前提として日本が北朝鮮から拉致被害者を取り返すには、まず北朝鮮が経済的に貧しいことが望ましいと言えます。北朝鮮が貧しければ、彼らの財政難を利用して、経済援助との引き換えに拉致被害者の返還を迫ることができるからです。
逆に北朝鮮経済が潤ってくると、わざわざ日本との関係をよくする必要はなくなるので、交渉に乗ってくる可能性は必然的に低下します。
後者がまさに今の状況なのです。
北朝鮮の経済は今、ここ数年で一番良いとされています。GDPは3%以上成長し、軌道に乗っているのです。そしてそれは、ロシアとの関係によるものに間違いありません。
世界的な経済制裁を受けている北朝鮮とロシアは、互いに制裁を乗り切るために支え合うパートナーです。
北朝鮮はウクライナの戦争でロシア軍に兵を派遣し、武器・弾薬を提供することでロシアを支えます。ロシアは、その見返りとして北朝鮮に石油を「提供」(輸出ではなく)することで北朝鮮の経済、産業を支えています。
ここで重要なのは、北朝鮮はロシアを支えることで金を稼いでいるということです。武器弾薬の製造はロシアへの支援であると同時に立派な軍事産業ですから、ロシアで物資の需要が増えるほど北が儲かる構図が出来上がっている。しかもそれはロシアにとってはありがたいから、お礼に石油の支援もしてくれる。
経済制裁にさらされようと、自分たちで違う世界を作ってしまえばそこで楽しく生きていけることに北朝鮮とロシアは気がついてしまったのです。
ここを引き剥がさないことには、北朝鮮経済を貧しくすることはできません。つまり、拉致交渉の大前提に立つことができない。
北朝鮮経済を貧しくするには、彼らにとって恰好の収入源であるウクライナの戦争を一旦止めて、カネと石油の流入を断つほかありません。
拉致被害者奪還には北朝鮮の経済難が必要です。そして北朝鮮の経済難にはウクライナ停戦が必要。だから拉致被害者奪還にはウクライナ停戦が必要なのです。
何がなんでもウクライナ支援継続だという人は、実は北朝鮮が豊かになって欲しいし、拉致被害者が帰国できなくても構わないと言っているようなものです。
国際関係を考える時には、表面ではなく、このようにダイナミックかつドライな考え方ができないといけないということを思わされる最近の情勢です。