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「アサド政権崩壊は歓迎すべき」は本当か
シリアのアサド政権が崩壊しました。
国外逃亡したアサド大統領の航空機が行方不明になったなどという憶測も飛びましたが、今はモスクワに到着したと報じられています。
混乱の中注目すべきは、世界のリーダーたちがどのような反応を示しているかということです。
まず、自由主義社会の首脳は、基本的に圧政を敷いてきたアサド政権の崩壊を歓迎していると言えます。
例えばEU外相カヤ・カラスは、「アサド政権の終わりはポジティブで、待望の展開だ」と述べています。
The end of Assad’s dictatorship is a positive and long-awaited development. It also shows the weakness of Assad’s backers, Russia and Iran.
— Kaja Kallas (@kajakallas) December 8, 2024
Our priority is to ensure security in the region. I will work with all the constructive partners, in Syria and in the region.
英首相スターマーは、長すぎるアサドの圧政に国民が苦しめられてきたとし、「彼(アサド)の出国を歓迎する」とコメント。
フランス政府、ドイツ政府なども似たようなコメントでアサド政権崩壊を喜んで受け止めています。
日本政府は、林官房長官の「重大な関心を持って注視する」という極めておざなりなコメントでやり過ごすことにしたようです。
人道が改善される可能性にも触れ、一応欧州の歓迎ムーブに便乗している。とりあえずは歓迎側にいると言えます。
ではアサド政権崩壊はやはり世界的に歓迎すべきなのでしょうか?
現実に即して考えれば、そうとも限らないというべきでしょう。というのも、アサド政権を打倒したHTS(シャーム解放委員会)もまた、イスラム過激派テロ組織なのです。
アサド政権が倒れたのは確かに良いことです。しかし、HTS政権が誕生したのは良いことではない可能性もあります。
可能性があると表現したのは、ひょっとしたらHTSの政権は、平和で常識的な運営を行うかもしれないと感じさせる発信が目立っているからです。
HTSの指導者であるゴーラーニーの発言に、その一端を見ることができます。
ゴーラーニーはCNNの取材に対し、「シリアは恣意的な政治から、制度的な統治に移行すべきだ」と述べ、今回のテロの目的は、アサド政権の打倒を通じて外国軍がシリアに駐留しなくて済む状態を作り上げることだと述べています。
国際強調を拒否してきたアサド政権をHTSの政権に替えることで、国際社会の一員として平和にやっていけるシリアにしようという趣旨です。
この辺りを捉えて自由主義各国はアサド政権の終了を歓迎しており、確かにそのようになる可能性もあります。
しかし自由主義国家にも、これを必ずしもいいことと言い切っていない国があるのも事実です。
それがアメリカ、トランプ次期大統領です。トランプは、「シリアは混乱しているが友人ではない。」「アメリカは何も関わらない方がいい、関わってはいけない!」と述べ、アサド政権が倒れたからといって特段利益なるとは言えないとの考えを発信しました。
Opposition fighters in Syria, in an unprecedented move, have totally taken over numerous cities, in a highly coordinated offensive, and are now on the outskirts of Damascus, obviously preparing to make a very big move toward taking out Assad. Russia, because they are so tied up…
— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) December 7, 2024
ヨーロッパ諸国や日本が人道支援と開発のための資金拠出を行うのと対照的に、なるべく関わらないのが一番と考え、新体制に期待しないのがトランプです。資金拠出は、経済的相互依存の理論に基づいています。「お金で協力関係になれば相手はいい国になる」と考え、資金援助してあげようとしているのです。
自由主義社会の首脳たちは、HTSに「アラブの春の再現」を期待し、アサド政権崩壊をきっかけにそれを後押ししようと考えているのですが、今回の顛末はそれほどたいそうなものではないというのがトランプの見方です。
トランプは、アサドが撤退したのはロシアのサポートが受けられなかったからだとした上で、ロシアがアサド政権に加勢しなかったのはロシアがシリアを掌握しておくことの利益がなかっただけだと見ています。
トランプに言わせれば、ロシアにとってオバマの愚かさをアピールすること以外に、シリアをバックアップする理由はないのです。従って、アサド政権崩壊は中東の大きなうねりと言えるようなものではない。非常に冷静な分析だと言えます。
今やヨーロッパのリーダー的存在であるイタリアのメローニ首相も、アサド政権崩壊に関するコメントは何ら出していません。イタリアは外相も、イタリア大使が無事であること、人道を懸念していることだけを伝え、特定の立場の表明は避けました。
アサドが倒れたーと狂喜乱舞する他のヨーロッパ諸国や中途半端に「期待が持てるかも」と発言した日本政府の安直さと比べ、雲泥の差と言えます。
アメリカ、イタリアはHTSを正義の味方、自分たちの仲間として捉えていません。HTSがアサドを倒したとしても、彼らがアルカイダを母体とした、イスラム過激派テロ組織であることに変わりはないのです。
もうすぐ終了を迎えるバイデン・リベラル政権すらも、今回のテロを中東テロ続発のきっかけにしてはならないと考えています。テロを未然に防ぐため、HTSに関連のあるイスラム国の組織を現在進行形で叩いています。
もしかしたらHTSは自由主義社会に寄り添ってくるかもしれない。そしてその可能性は結構ある。
しかしHTSは同時にテロリストでもあり、アルカイダの実質的な後継者なのです。
アサド政権が終わったこと、HTSが自由を志向しているらしいことだけに反応し、今回の一件がいいことだと考えるのは拙速です。なぜなら彼らが自由を志向しているというのは淡い期待であるかもしれないからです。
相手はテロリストです。簡単に乗るべきではないでしょう。HTSの治世が本当に自由で平和的だったら、それはそれで良いのです。