【映画】『ロスト・キング』
イングランド プランタジネット王朝最後の王リチャード3世の遺骨を巡る実話です。世界史の授業では「ばら戦争」、彼の死後、テューダー王朝になり皆様ご存じのエリザベス1世まで続くことになります。
TOHOシネマズでは都内は六本木、日本橋、日比谷での上映
日本橋は3回やっており、わたしは日曜日の12時前後に始まる回をチョイス
ほぼ満席、客層は男女比同じくらい、年齢層は40代以降がメインといったところでした。
話しは、イギリス在住の女性が小学生の息子と共にシェイクスピアのリチャード3世を観劇し、王の描写について疑問を抱くことから始まります。
リチャード3世は生まれつき背中に大きな瘤があり(せむしですね)、性格は極悪で、兄の死後、甥っ子2人をロンドン塔へ幽閉後殺害し国王の座についた簒奪者として歴史上に評価されていました。
ですが、どんな国でもそうであるように、勝利者が己を正当化するために敗者を事実以上に酷評するのは常です。
(なにせヨーク家とランカスター家は王位を巡って長年戦っています)
しかもシェイクスピアが同様の描写をしています。
その影響でリチャード3世の評価はねじ曲げられているのでは、と彼女の疑惑は大きくなっていくわけですね。
彼女が歴史書を調べていく中でリチャード3世のアマチュア研究会の存在を知り、集まりに参加します。そこで自分と同様な考えの人々がいることに勇気づけられ、また有益な情報を得、彼女のリチャード3世探しが本格化していくのです。
そもそも彼の遺体はレスターの川に流されたとされているのですが、ある資料により埋葬されている可能性があることに気づきます。
教会はすでに解体されておりその場所は定かではありません。
でも当時の人々は信心深いので教会だった場所、重要人物が埋葬されていると思われる場所の上には建造物を建てないという暗黙の了解のようなものがあったことを助言されます。
で、古地図と今の地図を重ねた結果、公共施設の駐車場になっている場所へとたどり着きます。
目星は付いたものの発掘には多額の費用がかかります。彼女はレスター市とレスター大学にプレゼンし、発掘許可と費用全額大学持ちを勝ち取るのです。しかしそうそううまく事は運びません。コンクリートを剥がす前の事前調査で、教会らしき痕跡がいっさい反応しなかったのです。事前調査はあてにならないと励まされますが、大学側は費用の支出を取りやめてしまいます。(あれ、大幅減額だったかな)
発掘をするには彼女が費用を捻出しなくてはなりません。八方ふさがりの彼女にアマチュア研究会の会員がクラウドファンディングを提案し、会員に寄付を募ることにしたのです。
ネットにアップすると、どんどん寄付が集まります。その中に匿名で2000ポンドしてくれた人もいるのですが、これは彼女の元夫だったことが後々わかります。
費用が何とかなり、発掘が始まります。
三カ所、長方形に機械掘りしてから人手で丁寧に発掘していきます。刷毛とかを使う、あれですね。専門家たちは3つあるうちのここが有力という場所から手を付けますが、彼女は強行に違う1つからやってくれと言います。
費用を出しているのは彼女なので、彼女の意見が通りますが、協力者の専門家(レスター大学を解雇されてしまった学者)は癇癪を起こし帰宅してしまいます。
発掘は続けられ、なんと彼女が言ったところから成人と思われる骨が見つかるのです。
後頭部に致命傷となっただろう大きな傷の痕跡
背骨は大きく湾曲した、明らかな脊柱側湾症
骨はDNA鑑定され(プランタジネット王朝の母系子孫がカナダに在住していることが事前に判っていた)、ヨーク家の誰かであることがわかり、骨の形状から発掘された地層の年台からリチャード3世のものと発表されました。
このニュースは当時大きく取り上げられ、日本でもニュースになりましたね。これによりリチャード3世はせむしではなく、極度の脊椎側湾症であったことが判明、死亡原因も後頭部に大きな打撃を受けたためというのが判明したわけです。
遺骨発見の功績はレスター大学の手柄にされてしまいます。
リチャード3世の遺骨は大聖堂に改めて安置されますが、当初は王の紋章は付けられませんでした。ですが、研究会の熱心な働きかけにより紋章が付与され、イギリス王室は「リチャード3世は正統な王である」と明記したのです。
兄王の息子2人は庶子なので、元々継承権はないし、ロンドン塔に幽閉されたかもしれないけど、殺されてはいないというのが現在の見解なようです。
世界史の授業でばら戦争の時代をやったときに、わたしはリチャード3世に敵意を感じなかったし、どっちもどっちでしょと思っていたので、少なくとも嘘で塗り固められた彼の評価が覆ったことは良かったなと思います。
きっと日本にも世界中どこの国にも同じようなことはあるのでしょう。ひとつの発見から歴史的解釈、人物評が大きく変わる可能性があるのが歴史の面白いところです。