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「小説 雨と水玉(仮題)(14)」/美智子さんの近代 ”なぜ?なんで?”
(14)なぜ?なんで?
落ち着いてくるといつの間にか振り返っていた。
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もう三年も前から知り合っていて去年から少しづつ仲良くなってきていたのに。
去年の春はあんなに熱心に「雨」のミュージカルのことをお話してくれて。
OB会のイベントの準備ではいく度か笑顔も見せてくれていたのに。
そしてイベントが終わったとき、優しい目でありがとうって言ってくれて。
嬉しかった。
手紙をもらったのはもっと嬉しかった。
わたしが自分の気持ちに気付いたのはこの前の冬の忘年会の夜。
ケンかのような雰囲気にたまらず立ち上がってしまった夜。
でも、その前からよくあの人の視線を感じていた。
いつごろからだろう、視線を意識するようになったのは。
気が付くと優しいまなざしで見ていてくれたことがあったっけ。
だから、手紙の返信をしてから電話をもらったときはドキドキしたけれど、
来るべき時が来たと思っていた。
だから気付いてほしくて「雨」とわかる「水玉」模様にしたのに。
気付いてくれると思っていた。
何か言ってくれると思っていた。
わたしのことをよくわかってくれていると思っていた。
なぜ、何も言ってくれなかったんやろ?
これまでのこと、全部夢やったのかしら?
なんでいい雰囲気を作れなかったんやろ?
わたし、なんか変なこと言うてしまったの?
わたしの幼いところ、見抜かれてしまったの?
本当の気持ちを聞きたい。
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啓一は、滅入っていた。
なぜ、あんなに緊張してしまったのだろう。
彼女の前ではなにも言えなくなってしまう。
これが性分なのだろうか。
そうだとしたら?
いや、仕事をしよう、打ち込んでやるだけだ。
仕事の世界、外の世界へ自分を表現してやろう!
必ず成し遂げよう、自分の証を!
そう自分を鼓舞するしか、方法がなかった。
美智子は英文学のゼミに、啓一は仕事に、何かに追い立てられるように入り込んでいった。