「小説 雨と水玉(仮題)(34)」/美智子さんの近代 ”美智子の仕事 その1”
(34)美智子の仕事その1
日曜の昼頃、部屋にいるとたか子が近づいてきて、
「お姉ちゃん、なんか楽しそうやなア、昨日は楽しかった?」
「うん」
「それでこれからのことを話ししたん?」
「うん、よく話しして分かり合っていこうって。
家族のことはお互いやし、これから二人で努力すれば何とでもなるって。
これについてはわたしも覚悟を決めた。
仕事についても一緒に考えようって、言うことになってる。」
「なんや、もうお姉ちゃん、彼氏理解あって仕合せやなあ、
結婚決まったようなもんやな。おめでとう」
「うん」
「えっ!うん、やて、ほんまに決まったん?」
「あ、いや、そんな、、、」
「えっ!プロポーズされた?」
「あ、いや、それは、、、」
「ははあー、そういうこと」
「いや、違うて、たか子ちゃん、そんな誘導尋問せんといてよ、
お父さん、お母さんには絶対内緒よ、ちゃんとしたらきちっとわたしから話しするんやから、な、頼む」
「それはわかった。でもわたしには聞かせてもらわなあかんわ、
協力できひんよ、そうやろ?」
「わかった、わかった。
昨日プロポーズされた。大阪城公園で」
「それで?」
「うん、帰りの新大阪でイエスって言うた。」
「そうかあ、でも早いなあ、デート三回目やろ?
でもあれか、知り合ったのがもう五年以上前、お姉ちゃんとしては三年以上待ったんやから、
おかしくはないか」
「うん」
「まあ、でもお父さんもお母さんも毎週土曜日昼前に出かけて八時過ぎに帰ってきているから、彼氏でもできたんと違うかって言うてたで。まあ、相手の素性はちゃんとしてるんやから少ししたら言っといたほうがええかもね」
「うん、そうやと思う。それは考えてる」
美智子は仕事のことについて、大学の高坂先生のところに相談するのと、先輩の英子さんに相談しようかと考えていた。まずは高坂先生と話してみようと思った。
その晩、啓一から電話があり、明日の月曜日には先生に連絡とってみるので水曜日に電話で土曜日のことを相談させてほしい、と伝えた。
月曜日に高坂先生に連絡すると、土曜日の午後三時にいらっしゃいということだったので、水曜日に啓一に電話でいつもの時間に待合せてゆっくり目の昼食を食べて、門戸厄神のKJ大学の前まで一緒に行こうということになった。
美智子は、今の書店の仕事は実際にやりがいがあると思ってはいたが、これからどういう仕事をしていけるのか、したいのかという点はまだあいまいなところがあった。
ただこういう仕事を続けながら自分の得意領域と言えるようなものを見つけて役に立っていきたいというのが具体的と言えば具体的な考えだったのだが、急に啓一とのことが具体化してきてちゃんと考えないといけなくなってきた、ということだった。
書物や作品に関わることを深めていくということなんだろうとは思っていた。それには書店での販売という側面だけでなく、出版という世界も関わることになる。
実際、先輩の英子は大学だけでなく出版社との関りを持っているようだった。
T先生の言う読書通になりなさい、というのもそれらのこと含めてのことに違いなかった。
高坂先生には、そういう世界のことを聞かせてもらうのと仕事を続ける方法みたいなものを相談したいと考えていたが、
英子には会社組織上の職場異動の可能性とどういう経験を積んだらそういう仕事がやっていけるのか、についても聞きたいと思っていた。
実際、啓一も電話で美智子の将来を考えて具体的な情報やアドバイスをもらうことが大事だと言っていた。
そういう風に考えてくれることが本当に有難かった。