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第19話 第2の事件

 エリリカは玉座の前に立ち、アリアは気配を消してその横に立つ。エリリカの話の邪魔になってはならない。その場でアリアは会場内を見渡す。ダビィ王やミネルヴァ女王、セルタ王子はもちろん、両国の使用人がちらほら見える。体調が悪いと言ったライ大臣、休憩したいと言ったイレーナ大臣は、ここにいない。またもや両国の大臣がいないのだ。
 いつもとは違う黒色の質素なドレスを翻し、エリリカは玉座から観衆側へ歩み出る。
「この度はお集まり下さり、ありがとうございます。つい三日前にも、私の誕生日パーティーにお集まり頂いたばかりですね。本日は、私の父であり、フレイム王国の王であるコジーと、母であり、フレイム王国の女王であるエリーの葬儀です。父と母が安らかに眠れるよう、私と一緒に祈りを捧げて下さい」
 エリリカは目の前の人々に向かってお辞儀をした。彼女の話が終わったことを確認し、アリアも並んでお辞儀をする。頭を下げたままでいると、パチパチと手を叩く音が聞こえてきた。何事かと思い、アリアはエリリカと共に顔を上げる。目の前では、ミネルヴァが上品な手つきでエリリカに拍手をしていた。ダビィ達はミネルヴァに感化されて、同じように拍手をする。
 大広間では、死者を弔う歌が歌われた。会場中の歌声が合わさるとなかなかの声量で、廊下の音さえ聞こえない。フレイム夫妻を弔うため、アリアも負けないように声を出す。会場内を見渡すと、アスミも大きな声で歌っているのが目に入った。
 フレイム家の墓地へ全員で移動した。墓地は裏庭にあるため、墓石を見ると城に背を向ける形になる。役割通り、メイドのローラとアスミが合流してついてきた。執事長のトマスは城内で指示を出しているから、ここには来ない。それを確認するため、アリアは後ろを振り返る。ローラは大きく手を振っており、アスミは小さく会釈をした。
 裏庭に墓地を作っただけあって、鬱蒼とした空気が漂っている。全体的に薄暗い。
 ここでは、夫婦を一基の墓石に埋葬している。その証拠に、一基につき二人分の名前が彫られている。メイドが綺麗にしたばかりの墓石は、普段よりも一層整えられている。順番に墓を見ると、一箇所だけ大きく深い穴が空いていた。この穴には、フレイム夫妻が死んだという現実を突きつけるだけの力があった。二人はここに埋葬される。
 アクア王国からはダビィが、フレイム王国からはエリリカが、代表して墓石の前で短い挨拶を述べる。フレイム夫妻の眠る棺は、力のある若い執事で埋めていく。
 全員の視線が棺に注がれる。辺りは静まり返り、スコップで土を被せる音だけが響く。
 ガシャンッ
 土を被せる音だけの空間に、突然、鈍い音が響き渡った。物体が勢いよく落下したような音。
 またしても、アリアの思考は状況が飲み込めずに固まってしまう。しかし、隣にいたエリリカは違う。すぐに後ろを振り返って、城を見上げた。よく見ると、四階の角部屋の窓が開いている。書斎でも執務室でもない。となると・・・・・・。
「皆様はここで待っていて下さい。アリア、あなたはついてきて」
 エリリカはそれだけを口早に述べる。言うが早いか、城の入り口に向かって、脱兎のごとく駆け出した。エリリカの一声でアリアも走り出す。
 全力で三階分の階段を駆け上がったせいで、体力自慢のエリリカも、さすがに息を切らしている。肩で大きな息をしているせいで、上手く言葉が出てこない。
「け、結構、はぁ、疲れる、わね。上まで、はぁ、いっきに、上がれるように、はぁ、ならないの、かしら」
「私も、はぁ、そう、思い、はぁ、ますわ」
 四階の踊り場で少しだけ息を整える。ここまで全力疾走だったから、下手に動くと足がもつれそうだ。なんとか数十秒で息を整え、窓が開いていた部屋に向かう。
 部屋には、音を聞きつけた警備兵が二人来ていた。二人は部屋には入らず、廊下から中を覗いている。エリリカは警備兵達に礼を言うと、各々の担当する階段に戻るよう指示を出した。警備兵達は敬礼してから、音を立てて階段を降りていった。
 二人が階段を降りてから、エリリカは真っ先に部屋へ入った。彼女の後に続いて、アリアも部屋の中に入る。部屋の中は窓が開いているのにも関わらず、ほんのり暖かい。
 部屋の中央には、小太りの人間がうつ伏せで倒れていた。頭は大きく凹み、そこから血を流している。その人物の周りには、青色や赤色の陶器の破片が散らばっていた。床をよく見ると、倒れている人物を中心に、カーペットが広範囲に濡れていた。
 この悲惨な光景とは反対に、倒れている人物の頭上では、大きなシャンデリアが輝いていた。丁度、シャンデリアの中心部分の真下に頭がある。
 シャンデリアには、銅でできた、太い棒のような物がいくつもぶら下がっている。その先には電球がついていた。中心の太い棒は一番長く、その先についている電球は一番大きい。
「だ、大丈夫っ!?」
 エリリカは倒れている人物に駆け寄ろうとして、足を止めた。そのまま扉のすぐ前にいる、アリアの隣まで戻ってくる。
「私達以外にも現場を見る人が欲しいわね。証拠を消した、とか疑われたくないし。ここからダビィ王をお呼びしましょう」
「私がその役割を引き受けましょうか?」

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