咲谷 紫音

小説を読むのも書くのも好き。時々、イラストや漫画も描くよ。 Twitter→@shionnsakuya

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最近の記事

記録1:祠と解けない雪⑧

 初芽が止める間もなく、冴子は持ったままのスノードームを逆さにする。九割が雪に埋まっているせいで、逆さにしても中の人形は見えない。しかし、土台についている、真っ黒な足らしき二本の棒だけは確認できた。  その瞬間、入口の方、背中側に気配を感じた。集落の人間に気づかれたかもしれない。冴子も同じことを考えているのか、初芽を二回、肘で突いた。三回目に突かれたタイミングで、同時に懐中電灯を向ける。  そこにいたのは、人型を保っている真っ黒な異形だった。明らかに人間ではない。全身が黒すぎ

    • 記録1:祠と解けない雪⑦

       初芽の反応が予想通りで面白かったのか、冴子は大笑いした。 「あっはっは。いや、すまん。怒るなよ。真面目に話すさ。初芽は、この洞窟を見てどう思った?」 「どうって……自然にできた洞窟には見えませんでした。人の手で―」 「そう、まさにその通りだっ! この洞窟は、人工的に作られたものなんだよ。その目的は、祠を人目から遠ざけるためだ。元々はこんな流れだったんだろう。  この集落には、昔から祠があった。初めて雪が降った日、当然祠の屋根にも積もるよな。それから数日、どれだけ経っても雪は

      • 記録1:祠と解けない雪⑥

        「こ、これは……スノードーム、か?」 「そう、みたいですね?」  お互いに顔を見合わせ、鏡合わせのように首を傾げる。祠とスノードームに、繋がりを見いだせない。  さらに不思議なのは、スノードームの中が見えないことだ。スノードームと言えば、台形の土台に、半円形の透明なドームがくっついている。そして、土台の上には小さな人形が置かれる。水と洗濯のりで、雪の結晶型やキラキラした紙を浮かせる。スノードームを逆さにすると、中の紙がドームの上部に浮き上がる。元に戻すと、人形の上に紙が舞う。

        • 記録1:祠と解けない雪⑤

           灯りを点けていないから、壁を伝って歩くしかない。しかし、一本道なのが功を奏した。お陰で、道が見えなくても簡単に辿り着ける。壁は洗った食器のようにつるつるで、手を怪我することもなかった。床に障害物はなく、転ぶこともない。かなり丁寧に舗装しているのか、暗闇でも移動しやすかった。 「さて、初芽。君の出番だ。頼んだぞ」 「……は?」  冴子は、嬉しそうに祠から二、三メートル離れた位置に移動した。小さい懐中電灯を点け、初芽の手元を照らす。  冴子の行動の意味が分からず、彼女と祠を目で

          記録1:祠と解けない雪④

          「はぁ。まさか本当に来るとは」 「もっと嬉しそうにしてくれよ。大好きな私との大冒険だぞ」 「いつ私が大好きだって言ったんですか」  スキップで進む冴子とは逆に、初芽はたらたらと歩いている。田舎すぎるせいで、バスも電車もなければ、タクシーも捕まらない。目的地までは歩くしかなかった。  初芽はショルダーハーネスを引っ張り、リュックを上げる。重すぎるせいで、だんだんと落ちてくるのだ。 「へばるなよ、初芽。目的地はもう目の前だ」 「体力はありますよ。ただ、先輩のテンションについていけ

          記録1:祠と解けない雪④

          記録1:祠と解けない雪③

           初芽が冴子に出会って気に入られたのは、入学してすぐの頃だった。四月も半ば、S大が女子大ということもあり、露出狂の出現が多かった。初芽が大学を出たところ、冴子もまた、露出狂と対面していた。気づいてしまった以上、放っておくわけにもいかない。  だから、初芽はそっと背後から近づき、変態男に背負い投げをかました。かなり太っていたが、体は簡単に宙へと浮く。その後は別のS大生が警察に通報し、変態男は無事に逮捕された。そして、なぜか冴子に気に入られた。 「男に声をかけず、いきなり背負い投

          記録1:祠と解けない雪③

          記録1:祠と解けない雪②

          「で、どうだ?」 「はぁ。どうだ、と言われましても……」  火戦初芽は溜息をついて、もう一度パソコンの画面を見つめる。何から何まで胡散臭い雰囲気しか感じない。もっと言うなら、ブログのアクセス数欲しさに、奇妙奇天烈なことをやっているだけに思える。どうだ、と意見を求められても、特別感想など出てこない。  しかし、それをそのまま言ったところで、目の前の先輩、都々森冴子は聞く耳を持たない。彼女の中で答えは決まっていて、初芽はそれに従うだけだ。時々、どうしてこんな先輩に付き合っているの

          記録1:祠と解けない雪②

          記録1:祠と解けない雪①

           オカルト調査日記  二〇XX年 〇月×日  Y県にある田舎の集落で、洞窟を発見した。不思議なことに、それは人の手によって作られたように見えた。規模はそれほど大きくない。出入り口から奥までは、十メートルくらいだ。横幅は、大人が二人並べるくらいだろう。一本道の一直線だから、入口に立って最奥を見ることもできる。とはいっても、灯りのない洞窟だ。実際は、暗すぎるせいで、入口に立っても最奥は見えない。  洞窟内には、祠が一つあるのみだった。場所は最奥で、扉が壁にくっつく形で置かれていた

          記録1:祠と解けない雪①

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          『初芽と冴子のオカルト日記』の表紙

          『初芽と冴子のオカルト日記』の表紙

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          『真寧姫子の百合営業日記(裏)』

          『真寧姫子の百合営業日記(裏)』

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          ゾンビハニワくん①

          ゾンビハニワくん①

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          エピローグ 完全なるハッピーエンドには遠くても

           エリリカは、アリアの腕を勢いよく捕まえる。まるで、一生逃がさないとでも言うように。突然のことで、アリアは反応に遅れてしまう。 「私、エリリカ・フレイムとメイド長のアリア・アカシアも結婚することにしました」 「・・・・・・え、え、ええっっ!!!!」  アリアが珍しく大声を上げる。こんな話は聞いていない。そもそも、アリア自身は一度も了承したことがない。エリリカの発言に一番衝撃を受けたのは、当事者であるアリアだった。あまりの衝撃に、声が裏返る。 「あの、そのようなお話は聞いており

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          第57話 セルタの話

           セルタの態度の意味がようやく分かった。彼はアスミが疑われていると勘違いして、怒っていたのだ。エリリカに挑むように質問しては、やり返されていたけれど。  それに、アスミがアリアやエリリカを避けていた理由も分かった。エリリカはセルタの婚約者。セルタと付き合っていることが知られたら、と怯えていたのだ。それほど二人は思い合っている。結婚まで考えていても不思議ではない。セルタがエリリカの申し出をすぐに承諾したのだって、元から結婚する気がなかったからだ。  セルタとアスミは数分間、視線

          第57話 セルタの話

          第56話 アクア夫妻の秘密

          「戦争に同意した理由は、アクア王国の勝ちが約束されていたからだ。アクア王国は、マーク大臣のお陰で文明、技術面ともに有利だった。どう考えても戦争に負けるはずがない。それなら、戦争に勝って上下関係をはっきりさせようと思ったのだ。  わしらの考えた通り、戦争に勝つことができた。半年以上掛かったのは、予想外だったがな。コジーとエリー、ライ大臣は、降伏を申し入れてきた。戦争の理由を口外しないこと、降伏すること、わしらはどちらも受け入れた。条件を付けてな。それが、ローラだ。分かりやすく言

          第56話 アクア夫妻の秘密

          第55話 気づいた理由

          「警備兵が通したのだから、あの場を通っても怪しまれない人物であることは確かです。また、城内の構造や事情、グラスの色をよく知る人物であることも条件です。城内の構造は、王族と一部の使用人しか入れない四階以上も含みます。平等にいきましょうか。私、メイド長のアリア、執事長のトマス、ライ大臣、勤続年数の長いかつ住み込みメイドのローラとアスミ、ダビィ王、ミネルヴァ女王、セルタ王子、イレーナ大臣。  ライ大臣の事件を思い出して下さい。犯人の条件が分かりますね。それは、犯人がアリバイトリック

          第55話 気づいた理由

          第54話 犯人の話

          「ローラ・ウェルは、アクア王国の前大臣である、マーク・スタンの娘よ」  エリリカは、先ほどよりも落ち着いたトーンで淡々と話す。とうとう耐え切れなくなったミネルヴァが、悲鳴を上げた。ダビィは顔を抑えて下を向く。アクア夫妻はそのまま止まってしまった。  アクア夫妻以外は、今日一番の衝撃を受けた。いや、与えさせられた。エリリカに向けられた視線が、再びローラに向けられる。視線を一身に受けても、両手を頬に添えてニコニコとしている。しかし、アリアの悲しそうな顔を見て少しだけ切ない表情にな

          第54話 犯人の話