第56話 アクア夫妻の秘密
「戦争に同意した理由は、アクア王国の勝ちが約束されていたからだ。アクア王国は、マーク大臣のお陰で文明、技術面ともに有利だった。どう考えても戦争に負けるはずがない。それなら、戦争に勝って上下関係をはっきりさせようと思ったのだ。
わしらの考えた通り、戦争に勝つことができた。半年以上掛かったのは、予想外だったがな。コジーとエリー、ライ大臣は、降伏を申し入れてきた。戦争の理由を口外しないこと、降伏すること、わしらはどちらも受け入れた。条件を付けてな。それが、ローラだ。分かりやすく言えば、『三人がローラをスパイだと知った状態で送り込んだ』ということだ。何か良からぬことを企てないように、ローラを見張りにつけた。だから、コジーとエリーはローラを引き取り、自分の子ども同然に育てた。わしらが出した条件に従ってな。戦争を計画せずにローラを側に置くのなら、真実を黙っていよう。言わば、交換条件だよ。この条件がある限り、アクア王国の方が上だという証にもなる。
ローラの名前を変えたのは、マーク大臣の娘だと知られないようにするためだ」
ダビィはバツが悪いようで、できるだけローラと目を合わせないようにしている。ローラはそのことを知った上でフレイム王国にいた。彼女はもう何も感じない。これで、アクア夫妻が隠そうとしていた真実が暴かれた。
アリアは思わず、酷いですわと呟いた。
「アリアさんがそう思ってくれるだけで、あたしは嬉しいですよ」
ローラに声をかけられ、口に出していたことに気づく。アリアの顔がサーッと青くなった。
「声に出ていましたか!? も、申し訳ありません。そのようなつもりは―」
「良い。本当のことだ。わしらは結局、『どちらが上に立つか』ということしか考えていなかった。セルタ、お前はそうなるなよ」
ダビィはセルタに期待している。心優しい彼が、両国の仲を完全に取り戻してくれることを。セルタの背中は自然と真っ直ぐになる。ミネルヴァは重く沈んだように、暗い空気を纏っている。両国の醜い思惑など知る由もなかった、トマスやアスミ、クレバ医師は、信じられないという顔でアクア夫妻を見ていた。
この世界にたった二つしかない、海に囲まれた大陸。その中ですらも、協力して暮らすことができなかった。
セルタが返事をしかけたところ、エリリカがそれを遮った。
「最後はあなた達の番ですよ。セルタ王子、アスミ」
「は」
「えっ!?」
セルタとアスミはお互いに顔を見合わせて、困惑している。
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