吐血について
今日の当直中、吐血して救急搬送となった方に緊急で胃カメラを行った。緊急での胃カメラを行う場合について解説。
1. 口から血を吐いた時に考えられること
肺や気管支等の空気の通り道からの出血(=喀血)である場合、胃カメラは不要である。また口の中を切ったり、鼻血が流れ込んで血を吐く人もいるので、血を吐いた方が病院を受診されたとき、どこからの出血なのかが重要である。
2. 消化管出血の症状
胃や食道、小腸、大腸など、食べ物が通る所を消化管と呼ぶ。消化管のうち胃カメラで確認できるのは、上部消化管と呼ばれる食道・胃・十二指腸(の一部)である。小腸は通常の胃カメラでは観察できず、大腸からの出血であれば大腸カメラが必要である。
食道や胃、十二指腸から出血した場合、症状としては吐血と下血が見られる。胃酸によって血液は酸化し、黒く変色する。血が出たばかりであれば真っ赤ものを、少し時間が経った場合には黒っぽいものを吐くことが多い。真っ赤であれば現在も出血している可能性があるため、緊急を要することが多い。便として血液が出る場合には、真っ黒な便(=黒色便)が見られることが多い。便が出るまでには時間がかかるため、黒色便が出た場合は出血から時間が経っていることがある。
3. 緊急での胃カメラが必要な場合
緊急で行う必要があるのは、「血が出続けている場合」である。
吐血する可能性がある疾患は多岐に渡るが、全てにおいて緊急でカメラが必要なわけではない。吐血したら全例緊急で行えばいいじゃないか、と思われるかもしれないが、食後等で胃内に食べ物がある場合、カメラの刺激で嘔吐することがある。その嘔吐物によって誤嚥し肺炎を起こす場合や、最悪窒息する場合がある。また食べ物の塊は胃カメラで吸引して除去することができないため、十分に観察できず、日を改めて再度カメラを受けてもらうこともある。どうしても緊急で行わないといけない場合を除いては、絶食(=ご飯を食べないこと)で胃の中を空っぽにしてからカメラを行う方が望ましい。
緊急で胃カメラを行う可能性が高い疾患は、肝臓が悪い人(肝硬変の人)に見られる食道静脈瘤・胃静脈瘤の破裂である。肝臓が硬くなると、本来とは別の血管に血液が流れ、瘤のように血管が太くなることがある。その血管が破れると、大量に出血し、場合によっては致命的になる。また胃潰瘍・十二指腸潰瘍も、血圧が低い、真っ赤な血を吐いている等があれば緊急で胃カメラを行う必要がある。
4. 吐血しやすい人
緊急で胃カメラを行う必要がある、食道静脈瘤破裂や胃潰瘍などを起こしやすい人がいる。静脈瘤に関しては、上記の通り肝臓が悪い人である。原因として多いのはお酒。日頃から大量に飲酒している人は注意が必要である。胃潰瘍に関しては、ピロリ菌に感染している人、痛み止めを飲んでいる人に起きやすい。ピロリ菌は胃潰瘍や胃癌の原因となる細菌である。一度も検診等で胃カメラを受けたことがない人は、一度検査を受けることをオススメする。胃潰瘍の原因となることがある痛み止め、頻度が多いものはロキソプロフェン(ロキソニン)である。NSAIDsと呼ばれる種類の痛み止めは潰瘍を作りやすいため、腰痛や頭痛などで使うことが多い人も注意が必要である。吐血した場合、そういった痛み止めを使用しているかどうかを伝えてもらえると、検査を行う側としては非常にありがたい。
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