八代亜紀さんの病気について~皮膚筋炎の予防と初期症状~
昨年12月30日、歌手の八代亜紀さんに急速進行性間質性肺炎のため亡くなっていたことが昨日報じられた。膠原病の一種であり、指定難病である抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎と、急速進行性間質性肺炎を2023年9月に発症し、療養を続けていたとのことである。ご冥福をお祈りするとともに、この病気について情報提供できればと思い、まとめてみる。かなり医学用語が多くなってしまうため、太字部分のみでも目を通していただけると幸いである。
皮膚筋炎とは?
初期症状は?
その名の通り、「皮膚」と「筋肉」に炎症を起こす病気であり、初期症状としては皮膚の変化や筋力低下、息切れが見られることが多い。その中でも特徴的なのが、顔に見られる赤い皮疹である。 むくみを伴った紅い皮疹がまぶたに現れたものは「ヘリオトロープ疹」と呼ばれる。顔以外にも、手指関節・肘・膝関節の外側に、表面がガサガサした紅い皮疹が現れることもあり、これらは「ゴットロン徴候」と呼ばれる。
筋肉の症状としては、筋力低下や筋肉の痛み、疲れやすいなどが見られる。
抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎
皮膚筋炎の中には、皮膚症状はあるが筋症状のない、もしくは軽度なものも存在し、これらを『筋無症候性皮膚筋炎』と呼ぶ。この筋無症候性皮膚筋炎に特徴的な抗体が「抗MDA5抗体」であり、今回亡くなった八代さんは抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎と診断されていた。
なぜ筋無症候性皮膚筋炎を区別するのかというと、抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎は、しばしば乾性咳嗽や進行性の呼吸困難感などを伴う「急速進行性間質性肺炎」を合併し、初期での積極的治療が遅れると予後不良になるからである。
皮膚筋炎の23~58%程に抗MDA5抗体を認め、このうち71%が急速進行性間質性肺炎を発症する。急速進行性間質性肺炎には確立された治療法がなく、大量ステロイドや免疫抑制剤併用療法などが行われるが、治療抵抗性を示す。予後は2年生存率28.6%と非常に不良であり、治療が行われても25%の患者は半年以内に呼吸不全で死亡する(日本アフェレシス学会雑誌40(2) :144-145、2021、より引用)。
どんな人がなりやすいか?
日本における皮膚筋炎の男女比は約1:3で、女性に多い病気である。
年齢は60歳以上に多いとされている。
皮膚筋炎の原因は?
本来、病原微生物を退治して身を守るための防御システムである免疫が、自分の体を攻撃してしまうこと(=自己免疫性疾患)で起きるとされている。したがって治療は、免疫を抑えるようなステロイドであったり、免疫抑制薬が用いられる。
ただし、なぜ自分の免疫が自分の体を攻撃してしまうのか、なぜ筋肉や皮膚が攻撃の中心なのかについては、まだ解明されていない。現時点では、生まれ持った体質に微生物感染などの外からの出来事が加わって発症するものと考えられいる。
予防はできるのか?
結論から言うと、予防は難しい。原因もわかっていないため、疑わしい症状がある場合には、早めに病院を受診し、診断がつけば早めに治療を開始することが重要である。また、いわゆる遺伝病ではないが、自己免疫性疾患のなりやすさは遺伝すると考えられており、家族に似た症状がおられる方もいる。もし、家族で免疫による病気に罹っている、もしくは罹ったことがある人がいるなら、「どんな症状から発症したか」「何歳くらいで発症したか」「どんな治療をしたか」などの情報を集めておくことが、早期発見につながる。