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キッチンハイターを飲んじゃった!

正月に、間違えてキッチンハイター®を飲んでしまった人が来院された。
幸い、量が少なかったためか、症状なく経過しているものの、非常に危険であることには変わりない。
実際、漂白のためにハイターを付けておいたコップの水を誤って飲んでしまう事故も起きている。もし飲んでしまったら、すぐに病院を受診するべきだが、それまでの間に何かできることはあるのだろうか?

キッチンハイター®の主成分

次亜塩素酸ナトリウムを主成分とした塩素系漂白剤で、液性は非常に強いアルカリ性である。液性には酸性とアルカリ性とがあるが、人体に及ぼす影響が異なる。一般的に酸は粘膜表面の凝固壊死を生じるため、浅在性の粘膜障害にとどまることが多い一方、アルカリは鹸化(けんか。油脂を加水分解すること)を伴った強い融解作用によって障害が深部にまで及ぶため、瘢痕狭窄を来しやすく、時に消化管穿孔をきたす(1) 。
つまり酸は皮膚表面を強く損傷させ、接触時の強い痛みが出やすいのに対し、アルカリ性の物質は皮膚のタンパク質を侵し、浸透しながら深部まで達し皮膚の組織を損傷させるため、放置するとより重症化しやすい。また接触時は大したことなくても、時間が経ってから症状が出ることもある。

(1)山田徹ら:腐食性食道炎および胃炎に対して胸腔鏡腹腔鏡下食道亜全摘術および胃全摘術を施行し二期的再建を行った1例、日本消化器外科学会雑誌、53 巻(2020)8号、627-634)

ハイターを飲むことで起きる人体への影響

くち~食道:腐食性咽喉頭食道炎

飲んでしまったとき、通り道である口やのど、食道に炎症を起こす。
場合によっては組織が壊死し、穿孔と言って穴があいてしまうこともある。こういった症状は、飲んですぐよりしばらく時間が経ってから出ることが多い。

<経過>
食道に炎症が起きた場合の経過を時系列に並べてみよう。
①数日以内:細胞が壊死する。
②5日~3 週:壊死組織が脱落し、潰瘍が形成される。
③3 週~3 か月:潰瘍が治る時に瘢痕となり、食道が狭くなる。

<治療>
まずは保存的治療が行われることが多い。全身管理のほか、消化管洗浄や活性炭の投与、牛乳の投与などが有効とされている。後で詳細を記すが、花王のホームページにも、誤って飲んでしまった場合には牛乳を飲むことが勧められている。

<急性期を乗り切った後>
瘢痕狭窄と癌化が問題となる。
瘢痕狭窄は腐食性食道炎の 40~80%に発生するとされており、治療は内視
鏡的拡張術やステロイドの投与が行われる。治療抵抗性の場合は外科治療も治療選択肢となってくる(1) 。

胃:有毒ガス発生

胃に入ると、強酸性である胃液と中和するため、アルカリによる作用は軽減される。では胃まで入ってしまえば安全か、というとそんなこともない。なぜなら、胃液と反応したときに有毒ガス(塩素ガス)が発生する可能性があるからだ。

塩素ガスに効く解毒剤・拮抗剤はなく、呼吸状態等の管理をするしかないため、速やかに病院受診が必要である。

肺:化学性肺炎

飲み込むだけでは肺に影響出ないが、気持ち悪くなり嘔吐すると、吐いたものが肺に入って肺炎を起こすことがある。これも特効薬がないため、酸素を投与したり、気管に入ったものを吸引除去するなどの対応しかない。

まとめ・応急処置

塩素系漂白剤は非常に便利だが、人体に入ると多大な悪影響を及ぼす。
なによりも飲まないことが重要である。

もし間違って飲んでしまった場合の応急処置について、最後に引用しておこう。花王 | 製品Q&A | 【塩素系製品】塩素系の漂白剤・カビ取り剤などを、誤飲した時の対処について教えて? (kao.com)
「キッチンハイター」や「ハイター」などの、「塩素系」と表示がある製品を誤って飲んだ場合は、何よりも迅速に応急処置を行ってください。

主成分の次亜塩素酸ナトリウムが口やのどの粘膜を荒し、胃液(酸性)と反応して、体内で有害な塩素ガスが発生する危険があります。
すぐに水で口をすすいでから、コップ1~2杯の牛乳または水を飲んでください。
牛乳には、食道や胃の粘膜を保護し、成分の影響を弱める働きがありますので、あれば牛乳を飲むほうが効果的です。
ジュースなど酸味のある飲料や、炭酸飲料を飲むと、熱やガスが発生しかえって危険です。絶対に飲まないでください。
また、飲んだ漂白剤・洗浄剤を無理に吐き出そうとしないでください。嘔吐物が気管に入って、窒息や誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)*をおこす可能性があり、危険です。

参考文献

(1)山田徹ら:腐食性食道炎および胃炎に対して胸腔鏡腹腔鏡下食道亜全摘術および胃全摘術を施行し二期的再建を行った1例、日本消化器外科学会雑誌、53 巻(2020)8号、627-634)

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