「君」へ。

あの瞬間、間違いなく「君」は存在した。

僕の前、君嶋復活祭さんに10点が出た。
僕は物凄く動揺したが、そんな僕を「君」はステージへ引っ張り出した。

僕は「君」のパフォーマンスを知らない。

マイクの前に立つと無意識にステージの広さを確認してた。少し「君」がこわいから。


僕は「私は醜い」から始めた。
テキストは最初の数行と最後の1文だけ決まっていた。むしろそこしか決まっていなかった。理由はこのポエムに出てくる「君」にかける言葉を僕がみつけられなかったから。

だから、僕は自分の底の力を信じた。
でもやはりそんな小手先はスラムでは通用しない。

そんな時「君」が徐々に姿を表に出してきた。

随分と「君」は感情的だった。
「君」が発した言葉は文章にすれば構成も繋がりもあったもんじゃない。

僕なら絶対書かない
ただの感情任せだ。

でも、あの瞬間はそれで充分過ぎた。

途中、冷静に「盛り上がりに欠ける」と思った箇所があった。
その時は間違いなく僕だ。

でも「君」は、お構い無しに感情に任せて言葉を出し続けた。

いつもの僕なら「伝われ伝われ伝われ」と焦っていたと思う。
でも「君」は本当に僕を無視して言葉を伝えた。

最後
「これが私のポエトリーリーディングです。」

と言ってから一呼吸おいて

「これが僕のポエトリーリーディングです」

と僕を主張して終わるはずだった。


拍手が鳴った瞬間、僕は手で拍手を遮ろうとした。だけどそれを「君」がさせてくれなかった。

カーン。

終わりの合図。

「君」は僕の最後の出番すら奪った。
「この瞬間だけ自分のことを好きになれる」と言った「君」は、最後の最後まで強欲だった。


採点を聞いたのは僕。
そこから君は出てこない。



「10.0点」


1番最初に読み上げられた点数が10点


君は顔を出さない。
だってパフォーマンス上の人だから。

嬉しかったけどホッとしたのを覚えてる。



あぁ、、
届いたんだ、、、

僕には大きな価値ある10点
嬉しかった。


ただ、冷静に考えてみると
この10点を叩き出したのは僕じゃない。


「君」だ。


自分の色、髪、目、鼻、口
自分のことが大嫌いだ。
こんなものをぶら下げているから幸せになれない


そう言った「君」だ。


「君」の声が言葉が心が届いたんだと思った。

僕はそれに嬉しく思えた。


「この瞬間だけ自分のことを好きになれる」と言ってた「君」
本当はあの日が初めてのパフォーマンスだったんだ。
少し強がりを見せたのか。


でも、あの10点に「君」は救われた。
そして落ちそうなところから掬ってもらえたはずだ。

「君」にとっても大きな価値ある10点だ。
ありがとうございます。

ねぇ。もう一回観たいと言ってくれた人がいたよ。他にも「君」のパフォーマンスを観たい人がいると思うんだ。

でも、きっと「君」はひねくれてるから「嘘だ」って言うだろう。「私なんて」って。
そういうの得意だからね。


また、おいでよ。



僕が待ってる。

Poemer by,MARIO





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