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IBN寮物語—入寮審査会1—

 新入寮生歓迎会は4月1日から三日三晩行われた。三日目にもなると、新入寮生はお互いの飲酒のレッドラインが把握できるようになり、そのラインを超えると自分で便所に吐きに行き、吐きに行けなかった者は友人が吐くのを手伝い、それでもダメな場合は救急車を呼ぶ、という仕組みが出来るようになった。また、こういった仕組みを通して、新入寮生同士でお互い助け合っていこうという協働姿勢が出来上がりつつあった。
 が、4月4日の朝に3年生の東先輩が1階談話室(新入寮生の共同居住スペース)に再び現れた。彼の口上の説明によって、我々は口上の嵐の中に放り込まれたのであるから、新入寮生全員が身構えるのも仕方ない。もはや彼は我々にとっては魔王である。ただ、彼はスポーツマンらしく、IBN寮内の仕組みをハキハキと説明していく。IBN寮内には館内放送があり、「情宣(情報宣伝)」と呼ばれる。当時は携帯電話の所持率が低かったため、友人や家族からの電話はIBN寮に直接掛かってくることが多かった。その電話を内線に引き継いで、本人に繋げるのが「情宣」の一つの役割である。このとき、館内放送で「〇〇さん、お電話です。」と「お」がついた場合は女性からの電話であり、「〇〇さん、電話です。」と「お」がつかない場合は男性からの電話である、という謎の言い回しの説明があった。
  こういった説明をそういうものなのかと新入寮生一同が何となく聞いていると、東先輩が突如、「本日の4月4日午後9時より、入寮審査会が行われます。名前の順番に一人一人が4階談話室に来るように。入寮審査会の内容は他言無用で、新入寮生同士が情報共有してもいけませんし、親きょうだいにも言ってはいけません。なお、入寮審査会が不適格とされた者は寮に住むことが出来ません」と言った。こう言い終わると、東先輩は再び、さっとその場を離れていった。
  新入寮生は再び騒然となった。というのも、全員がIBN寮から「入寮選考の結果、あなたの入寮が認められました」というハガキを今年の2月に受け取っており、そのハガキに基づいて引っ越しの準備などをして、遠路はるばるこうしてたどり着いているからだ。4月6日は入学式であり、その次の週には大学の講義が始まるわけで、仮に入寮審査会で不適格とされた場合は、宿無しになって新学期を迎えないといけない、ということになる。
  1階談話室には、再び、暗雲が立ち込めている。

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