ステラおばさんじゃねーよっ‼️③夢のなかでは
👆ステラおばさんじゃねーよっ‼️ ②夢のなかの夢〜 火災報知機-3 は、こちら。
🍪 超・救急車
ピピピ、ピピピ、ピピピ、ピピピ…
スマホのアラーム音で、カイワレはゆっくりと目醒めた。
しかし、たった今まで見ていたであろう夢、火災報知機の夢は、一切覚えていなかった。
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先にも記したが、カイワレはフリーのライターである。
実際はゴーストライターもこなし、今のところ自著と呼べる代表作も無い。
依頼原稿のテーマに沿った文章をひたすら執筆して各編集部の担当者へそれを送る、そんな毎日を繰り返していた。
執筆内容には自由がきかない身だが、夢のなかでだけは、創作の自由な羽をひろげ、縦横無尽に時空や時限をとび超え、世界を駆け巡っていた。
夢幻世界を、俯瞰で、時に近視眼的に司り、主役、脇役、ストーリーテーラーとして、いくつもの物語を創生させ、愉しんでいた。
しかし残念な事に、その夢たちは覚醒とともに、彼の脳裡からは一切の情報が消え失せてしまうのだった。
まさに、夢、幻(ゆめ、まぼろし)の世界。
ただし五感で受けた感覚は、身体が覚えていた。
浅い眠りの中、ただいたずらに夢を見て、疲れて、忘れる。ーーー
25年間生きてきた中で覚えていた夢は、ひとつもない。
日々、この繰り返し。
そのせいなのか、カイワレには睡眠欲がなかった。
けれど本当は、《夢日記》を綴ってみたい!
そう思い、幼い頃から睡眠時には肌身離さずノートを枕元に置いていた。
しかしそれはいまだ使われないままの万年筆と一緒に、ずっと転がっていた。
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カイワレが眠っている間、夢を見ているであろう事象は、【記憶に残らない、不必要な体感だけが残る】時間でしかなかった。
彼の平均睡眠時間である6時間中、ひとつの夢が終わると、《次の夢》を探すまで、《夢時空》と呼ばれる空間をくぐり抜けて、タイムリープをし続けるのだった。
そしてそれは、土管みたいな狭小な異空管を滑り落ちて移動し、《最初の夢》⇨《二番目の夢》といった具合で、目醒めるまでエンドレスに、それが繰り返されていく。
その過程ですら、夢を覚えていられないカイワレには、わかりようのないことだった。
夢のなかでの出来事は、起きるとすべて、忘れてしまうから。
「夢を見る状態」を引き起こすのは、深い眠りではなく浅い眠りの時にだと、何かの本で読んだ。
自分がなぜ、深く眠りにつけないのか心当たりがなかったため、深刻に考えずに今までやり過ごしてきた。
はあ、疲れる。
眠るのが、イヤだな。
目醒めた後に残る疲労、思い出せない夢での感覚を想像すると、眠る行為自体にため息をついてしまう。
日々、この繰り返し。
そういう訳で、カイワレは日々倦怠感があるまま仕事をしていた。
しかし夢のなかでのカイワレは、自由な表現者であり、創作する快楽を堪能していた。