ステラおばさんじゃねーよっ‼️78.契りの日
👆ステラおばさんじゃねーよっ‼️77.コナモン・パーティ〜今じゃない は、こちら。
🍪 超・救急車
カイワレ新居での結婚祝賀パーティからさらに1ヶ月後、犬村 詩と神林 ひかりは、神社仏閣での神前結婚式を挙げた。
文金高島田の髪結いに、正絹で織られた鳳凰柄の白無垢を羽織ったひかりは、いつも以上に研ぎ澄まされた高貴な耀きを放っている。
ポーちゃんは神林家に婿入りするため、神林の家紋が入った五つ紋の黒紋付羽織袴を着用し式に臨んだ。
新婦側の参列者として、知波と歩が顔をそろえ、新郎側の参列者として、カイワレがすぐそばで見守った。
10月中旬の陽気は寒過ぎず暑過ぎずで、ちょうど良い気候の中、式は粛々と執り行われた。
そしてふたりは神前で盃を交し、れっきとした夫婦(めおと)となった。
またひかりの系列ブライダル関連企業の手前、洋式ドレス写真を残すのに教会を貸し切り、ウェディングドレス姿のひかりと、タキシード姿のポーちゃんの撮影も行われた。
この瞬間のために産まれてきたんだと思わせるような晴れ晴れとした幸せな笑顔で、ふたりは結婚写真の中に収まった。
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式は家族だけで執り行い、結婚披露宴がこの流れで組み込まれていた。
ひかりは神林財閥の当主として、あらゆる財界人、政界人、取引先への御披露目もしなければならない立場であった。
本意としてふたりは、派手な結婚披露宴はやりたくなかったが、そうも言えぬ立場をよく理解していた。
「ひかちゃん、すごくキレイ!」
歩は既に感極まって泣いている。
「ありがとう、あゆちゃん」
折角のメイクが涙で落ちぬよう、ひかりは必死に泣くのをこらえている。
知波はひかりの母の遺影を、カイワレはひかりの父の遺影をそれぞれに持ち、ひかりの前に立った。
ひかりは遺影をまっすぐ見つめ、それらに向けて言葉を紡いだ。
「お父さん、お母さん、今まで見守ってくれてありがとう。わたし今、最高に幸せです!産んで、育ててくれて、ありがとうございました」
遺影を抱くふたりは嗚咽をこらえながら、ひかりからの言葉を全身で受け止めた。
晴れやかで上品なひかりのたたずまいは、いつも以上に凛としている。
控室のテーブルには、聖の遺影も置かれていた。
ひかりはこの半年間、仕事と結婚準備で多忙を極めたので、聖の墓前での約束が果たせていなかった。
今日やっと聖先生にウェディングドレス姿を生披露できる…。
カイワレへ事前にお願いし、聖の遺影を式場に持って来てもらった。
ひかりはずっと果たせなかった約束を果たせた事にも、安堵していた。
額縁に収まる聖も、満面の笑顔でひかりを目いっぱい祝福しているようだった。
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「カンちゃん、じゃなかった…ひかり、準備はできた?」
ポーちゃんはひかりを迎えに来た時はじめて、《ひかり》と呼んだ。
「はい、大丈夫です。ウタさん」
ひかりはウタに、《さん》付けをした。
ふたりは結婚を機に呼び方を変えよう、と話し合ってきた。
ひかりの立場やポーちゃんの立場の両方を考え議論し尽くした結果、公の場では、時代錯誤に感じられたとしてもポーちゃんはカンちゃんでなく、今後はひかりと呼び、ひかりはウタでなく、ウタさんと呼ぶ事にした。
契りの日が、ふたりの絆をさらに強固なものにした。