ウオノメ
部屋には髪が散乱している。荒々しく扱われたであろうゴミ箱は中のティッシュを吐き出す。なぜか垂れた液体はだんだんと私の方へと近づいて、かおる。人間が出したものが腐敗しきった嫌な臭い。気持ちが悪い。私の目はなぜか潤んで涙が垂れた。この目の違和感には即座に気づくくせに鼻を覆うことはしない。きっとそんな自分の臭いなんてどうでもよくって、あいつのことを思って流すこっちの方が意味があるんだ。手のこうは濡れたところだけじんわりと暖かい。でもすぐに空気に逃げてしまって、後に残る寒さがやけにリアルでまた涙を流す。
朝の5:00。窓からは夜の青と朝の白がじんわりと混じって、部屋の形を淡くする。未だに床には髪が散乱していて、多くのものが影を生やしていくのに対し、その場に生っぽい黒線を残している。実に不気味だ。光が増えるたびにだんだんと寂しさが明瞭になってきて私は一人なんだと自覚する。どこかであいつは戻ってくるんじゃないかと思う気持ちが余計に自分を小さくしている。手の甲の寂しさはどんどん残って、目の周りはきっと赤く膨れ上がっている。かっこ悪いんだろうなと思う。
携帯のアラームがなる 。私はスヌーズを押して黙らせる。今は7:30。今日は日曜日なので仕事はない。白は強くなって、ついに私はひとりぼっちなんだよと宣告される。もう泣こうにも出す水も無くて、鼻をすすって気をなだめる。髪は未だに凛々しくそこにあって、なんでいるんだよと気を立てる。自分がやったんだろうがと髪は訴えるがそれに素直に答えてやろうなんて気持ちはない。でもそのことに対して全てが認められないので、倒れたゴミ箱を手にとって、落ちた髪をまとめて 、つかんで入れる。だんだんと使う部分が先へ先へと感覚は移動していく。朝はもう始まったのだ。