Sugar Body
この包まれてる時が私の至福だ。どこかへ行こうと試みてもいつも頭の中だけで、結局冷蔵庫の中に残ったアイスキャンディーを惰性で舐めてしまう。ラジオが今日の天気を陽気に話す。北の方は雨らしいのだが他は基本的に晴れで、窓の外をみると青い空が一面に広がっている。きっと自分と同い年の若者は今頃幸楽に勤しんでいるんだろう。南の小島に集まってエメラルドの海に全身を染めて肌をこんがりと焼き、夜にその土地にしかない珍味や海鮮を腹一杯食って花火する。光を見て感傷的になった誰しらぬ男と女は襖をそっと閉じ、そのまま一夜を過ごすのだろう。都会の方では地元から離れた先輩と久しぶりに再開して今流行りの映画を一緒に見に行き、終わった後に映画の感想を語り合いつつ、互いの近況を交代交代で語り合う。旧世代のセクハラ上司の愚痴から散歩中にたまたま空と同じ色の服を着ていたことまで精一杯話すのだろう。そして別れるときに光る薬指を見て、すこし切なくなる。そんなことをしているんだろうと思うと一人「くだらないな」と愚痴を発して自分のだめさを肯定する。きっとドアを開けてすぐどこかへ行くことなんて簡単なのに、それをよしとしないかわってるじぶんがいる以上実行に移すこともない。で結局ドロドロになった手を洗って布団に潜って角においたテレビを見ながらぐだぐだする。こうしているとやがて眠たくなって気づけば夢へと入る。単純に夢は自分を逃してくれるところであるから好きで、そんなふうにしてくれる布団はなお素敵だ。しかし不憫なことにいつか覚めてしまうのが夢で、毎朝くる長い鞭を嫌になってく。だからこの布団という温もりの飴を舐め続けられるなら、体を売ってしまっても惜しくないだろう。