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好き寄りの苦手
ライブが苦手だ。でも好きだ。
矛盾しているようだが、本当のことだ。
昨日、知り合いに誘われて、名前も知らないアーティストのライブに行った。
ここ数年、誰かのライブに行ってなかったので新鮮な気持ちだった。
場所は小さな小さなライブハウス。雑居ビルの三階にあり、20人入れば立ち見が出るほどの大きさだ。
ワンドリンク制だったので、500円玉と缶ビールを交換し、席についた。ステージと客席の距離はゼロ。手を伸ばせば、ステージに手が届いてしまう。
オープニングアクトで出てきた男性シンガー。もう還暦間近らしい。これぞブルース、と言った感じの歌を歌っていた。久しぶりのステージだったのか、ギターを弾く手も、歌声も震えていた。男臭さの中にロマンチシズム飲見える歌詞。観客は皆、そのシンガーを見守るような空気だった。緊張しているシンガーを観客が盛り上げ、一体感が生まれていた。
5曲ほど歌った後、次は30代くらいの女性シンガーだった。こちらもギターの弾き語りだ。抜群の歌唱力で、渾身の力を込めて歌い上げていた。1人目のシンガーとは違い、緊張など微塵も見せずに、ただ圧倒的な歌唱力を見せつける! と言った感じだ。バラード中心ということもあり、曲中はそこまで盛り上がらなかったが、曲終わりにチラホラと「上手いなあ……」といった声が聞こえてきた。水分補給に、芋焼酎をロックで飲む姿がカッコよかった。
そして、いよいよメインステージ。ピアノの弾き語りで全国各地を飛び回っているらしい、男性シンガーだ。1曲目から、最高に盛り上がった。鍵盤を叩く指先に、目がついていかないくらいの速度でピアノを弾く。それなのに、難しいことをしているとは微塵も思わせない笑顔。初めて聞く曲だったけど、すぐに覚えられるキャッチーなメロディ。観客の心を一瞬でつかんでいた。オープニングアクトの2人の時とは比べ物にならないくらいの盛り上がりで、客席のボルテージはどんどん上がっていった。みんな手拍子をしたり、合間のコールアンドレスポンスを楽しんだり、中には踊りだす人までいた。これだから、ライブっていいよなあ。音楽は自由だ。
でも、僕は手拍子するでもなく、レスポンスするでもなく、隅の方でジッと見ているだけだ。
曲が終わるごとに、精一杯の拍手は送るが、それ以外のことは何もしない。
一緒に盛り上がりたい気持ちも少しはあるけど、観察したいのだ。歌詞だって、一文字も聞き逃したくない。
でも、たまに申し訳ない気持ちになることがある。ステージで演奏する側からすると、きっと嫌な客だろうなという罪悪感に襲われる。
周りの客も、「この人、楽しくないのかな?」と思っているかもしれない。
僕は、最高に楽しい。生の音と声を浴びるのはこれ以上にない幸せだ。
そんな小さなこと考えても仕方ない、と開き直るしかないのか……。
だって、音楽は自由だから……。